── を 信じてはいけない

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◇  時間少し、遡る── 「本人に聞いてごらんよ。電話が繋がればね」  そう告げて、真取大輔は公衆電話の受話器を置いた。  真取大輔の特技は、生まれながらの特殊な声帯を使った『声真似』だった。  恭介は知らないが、グランドパーキング内で一一〇した時、すり替えられていたsimのせいで、一一〇すると、自動的に真取のスマホに繋がるようになっていた。  真取は女性の声で通報を受けるフリをして、パーキング内に警官を投入しないための処置を行った。  管理人室の電話も、真取は甲高い声で話をしたため、恭介が声で気づくことはなかった。  真取が石井のフリをしたのは、真取だと電話したところで、恭介が聞く耳を持たないのは分かっていた。  独自の情報網より入手した石井の話をし、信憑性を持たせる。  有里の暴走以降、行方知れずとなっていた石井は、彼の知る情報の範囲ではあるが『花林恭介に打ち明ける』恐れがあった。 (石井は、恭介くんからの電話も取らないだろうねぇ。有里が恭介くんのスマホを奪って電話をしたと警戒するだろうし。だが有里の性格を考えれば、美紀ちゃんのスマホを使っての連絡はプライドが許さない。よって、美紀ちゃんのスマホから電話がかかってくれば、石井は電話を取る可能性が高い)  加藤壮一を殺した犯人は不明だが、この流れだと石井寛治に全ての罪を被ってもらうことになる。  恭介が石井と連絡をとれば、二人は接触する可能性が高い。『若葉総合病院』に捜査員を向かわせて恭介を追跡すれば、石井の場所も探り当てられる。  手帳に『若葉総合病院』と書きこむ。  そして──【NG】こと蔵元美紀。彼女には佐渡正美の拉致と、木下裕二殺害、ならびに押収していた拳銃の不正使用の罪も被せよう。  石井寛治と蔵元美紀は付き合っていた。不本意とはいえ、裕二を手にかけた彼女は、罪の意識から自暴自棄となり、それを石井が匿っている可能性が高い。  ……その頃にはさすがに、恭介くんも出来上がっているだろうからね。石井寛治と蔵本美紀を逮捕。ぼくの警察功績章だって夢じゃない。  ふと「この電話は指示──」と言いかけた恭介の言葉を思い出す。そう、電話をしたのは、指示|ではない。ぼくの独断だ。  石井寛治と蔵元美紀の逮捕か、花林恭介くんが本当の真実にたどり着くか。どちらに転んでも、ぼかあどちらでもいい。まさに痛くも痒くもないわけさ。 (しかし、ねえ)  タバコをくわえながら、真取大輔は今までの『全て』の経緯を思い浮かべ、身震いした。 (本当に恐ろしい人だねえ。ここまでは全てアンタの思い描いた構図ってわけかい。全てを絡めて操って──こりゃ神業、いや悪魔の所業だよ)    ポケット内のスマホが、何度目かの着信を告げた。  恭介と電話している最中にも何度か鳴っていた、警察用ではなくプライベートのスマホだ。 (おっと、こりゃ失礼。すっかり遅くなっちゃって)
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