1208人が本棚に入れています
本棚に追加
内ポケットからスマホを取り出し、電話ボックスから出た。途端、がくん。と膝から崩れた。
「……お?」
自然と視線は足元を見る。地面に、血だまりができていた。
反射的に腰や足に手を当てる。背中に手を回した時、それに気づいた。ナイフが突き立てられていた。
「……こりゃいつの間に」
脳裏に、ある一場面がフラッシュバックする。
『なんだい? ここは使用中だよ……おっと失礼』
通話中、電話ボックスに割り込もうとした奴がいた。
何事かと追い払ったが、待っている様子もなく、気にも留めなかったが──その時、ナイフで刺されていたのだ。
痛みを感じない故に、痛みに気づけなかった。
(おいおい、なんてことだよ。横っ腹を殴りつけられたのは、ぼくだったってわけかい?)
鳴り続けるスマホの着信音が、遠ざかる意識にかき消されていく。
(ぼくも、駒の一つに過ぎなかった? それとも──こうなることさえも、キミは計算ずくだったのか、ねぇ?)
真取が倒れる直前、たまたま触れたスマホの着信が『応答』になり、通話が繋がっていた。
「やっと繋がりましたか。大輔さん、和達です。緊急事態です──大輔さん?」
「……」
傍らに立つ者は、スマホを一瞥すると、それを踏みつけて破壊した。
真取の手に握られていたメモには『若葉総合病院』とある。それを奪い取るように掴み、踵を返した。
◇
最初のコメントを投稿しよう!