── を 信じてはいけない

10/19
前へ
/237ページ
次へ
 美紀からの生い立ちを聞いて、分かったことがある。  俺はどうして美紀を好きになったんだっけ、という疑問。  彼女自身の闇を覆い隠す、そのミステリアスな雰囲気に魅かれていたんだ。 「一つ聞きたいことがある」  美紀は分かってた。と言わんばかりに頷いた。 「石井、お前にもだ」 「オレも、スか?」  石井は意外そうに、顔をしかめた。 「あたしからでいい? 聞きたいことは、裕二を殺した動機?」 「それじゃねえよ。確かに動機は気になるが、お前にそれがな」 「……どういうこと!?」  それには答えず、まずは石井だ。 「石井、お前に聞きたい。それは"役"のことだ」 「え? あぁそのことっスか、てかそれ、今必要なことっスか?」 「むしろ今だからだ。石井は裕二が死んだことは、知ってるな」 「……ええ、まあ」  言いにくそうに口ごもり美紀を見た。自身が知るはずもないのに口を滑らせ、美紀の匿いがバレた。 「美紀、裕二を殺したのはお前の"役"だったとして、それはお前にバスタブで死んだフリを指示した奴と同一なのか?」 「……!」  驚きで大きく目を見開く。 「俺はこの事件の黒幕は、お前だと」 「何言ってるの? 【NG】はあたしだし、裕二だってあたしが殺したのよ?」 「残念だがそれは本当だ。けどな、俺は分からなかったんだよ。何で裕二が殺されたんだろうって。【NG】が誰だってことにばかり気をとられて、裕二が殺された理由までは、気が回らなかった」 「だから、それって動機ってことでしょ? あたしが裕二を殺したのは──」 「ハッキり言わせてもらうが、動機を語ろうとしている時点で、お前に裕二を殺す『理由』はねえ」  美紀の言葉を遮って、はっきりとそのことを告げた。 「……なんでそんなことが言えるの? 理由もなくあたしが、裕二を殺したっていいたいわけ?」 「もしもが動機なら、何で俺に見せつける必要があった?」 「えっ!?」 「裕二のアパートからご丁寧に中継までされて、俺は短い時間の中で選択を迫られ怒りで身を震わせた。【NG】を見つけだけして、最悪、殺すつもりだったよ。だけどそれこそが、黒幕の狙い──だったんじゃねえのか?」  そう考えれば辻褄があうのだ。
/237ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1208人が本棚に入れています
本棚に追加