1208人が本棚に入れています
本棚に追加
「恭介、それであたしを撃ってよ」
美紀がその銃を指さした。
「なん──」「あたしは裕二を殺した仇じゃない。今がチャンスじゃない!」
正気を、否、常軌を逸した行動というのだろうか。
「美樹っ!」
石井が立ちはだかろうとするも、拒絶のように突き飛ばされる。
「寛治、あたしこのままじゃ"あの人"に顔向けができない。使命を果たさなきゃ」
落ち着きなく錯乱した美樹だが、逆に俺は冷静になれた。
("あの人"? のために、自分の命を捨てようとしているのか)
「よせ、美樹が犠牲になるべきじゃな い!」
「いいの寛治。恭介は出来上がっていると思うけど、これで仕上げだから」
俺が、なんだって?
今は聞いても無駄だろうな。
ただ分かること。黒幕は俺の手で美紀を殺させようとしている。
「なぁ」と一声かけて、落ちた銃を横に蹴り飛ばした。
「美紀、お前の境遇やトラウマは、同情しても共感はできねえよ。お前はお前で蔵元美紀じゃねえのか? そうやって誰かの手駒になるために、存在してるのか?」
俺だって一度は惚れた女だ。死んでほしくはねえ。
「自己犠牲で満足なんざ、他者に食い物にされる奴隷だ。お前さっき言ってたじゃねえか。『今度こそ変われると思っていたの』っ、て。今のままじゃ嫌、それが本音じゃねえのかよ!」
「……そ、それは……」
糸が切れた人形のように、美紀が膝をつき放心する。
「石井もだ。女を守りたい志は立派だが、真取の策略に、まんまとハマってんじゃねえ。てめえが加藤を殺してねえなら、逃げる道ばかり探すな。それな、ただの『現実逃避』だろ」
最初のコメントを投稿しよう!