── を 信じてはいけない

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「恭介、それであたしを撃ってよ」  美紀がその銃を指さした。 「なん──」「あたしは裕二を殺した仇じゃない。今がチャンスじゃない!」  正気を、否、常軌を逸した行動というのだろうか。 「美樹っ!」 石井が立ちはだかろうとするも、拒絶のように突き飛ばされる。 「寛治、あたしこのままじゃ"あの人"に顔向けができない。使命を果たさなきゃ」  落ち着きなく錯乱した美樹だが、逆に俺は冷静になれた。 ("あの人"? のために、自分の命を捨てようとしているのか) 「よせ、美樹が犠牲になるべきじゃな い!」 「いいの寛治。恭介は出来上がっていると思うけど、これで仕上げだから」  俺が、なんだって? 今は聞いても無駄だろうな。  ただ分かること。黒幕は美紀を殺させようとしている。 「なぁ」と一声かけて、落ちた銃を横に蹴り飛ばした。 「美紀、お前の境遇やトラウマは、同情しても共感はできねえよ。お前はお前で蔵元美紀じゃねえのか? そうやって誰かの手駒になるために、存在してるのか?」  俺だって一度は惚れた女だ。死んでほしくはねえ。 「自己犠牲で満足なんざ、他者に食い物にされる奴隷だ。お前さっき言ってたじゃねえか。『今度こそ変われると思っていたの』っ、て。今のままじゃ嫌、それが本音じゃねえのかよ!」 「……そ、それは……」  糸が切れた人形のように、美紀が膝をつき放心する。 「石井もだ。女を守りたい(こころざし)は立派だが、真取の策略に、まんまとハマってんじゃねえ。てめえが加藤(しんゆう)を殺してねえなら、逃げる道ばかり探すな。それな、ただの『現実逃避』だろ」
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