── を 信じてはいけない

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「美紀は心の病、茜はパニック障害、加藤は適応障害、オレは……薬物依存症っス」  マジか。有里茜は今にしてみればわかる。あいつの行動、言動は確かに異常だった。  しかし石井が薬物依存症? 「高校ン時、ちょっと‥‥更生したつもりが……反動で前より酷くなっちまって、ははっ」  自嘲気味に笑う。 「真取大輔も確か──傷みを感じない体……だったな」 「そうっス。みんな"あの人"の指示に従うことで、一般治療、いや高度治療よりはるか先の治療を受けられる約束だったんスよ」  腑に落ちた。が、納得したわけじゃない。 「最高の治療って、どんなんだよ?」 「証拠を見せてもらったワケじゃないンすよ。ただ気付くと、"あの人"が言うことは全て正しくて、全ての行動が正解で、従うことそのものが答えだったんス」 「……そりゃ洗脳だろ」  洗脳された者は、正常なものから見れば、ひどく滑稽に映るのだろう。  さらに多くの者はこういう『自分は大丈夫だ』と。  傀儡になっても気づかない。これは自分の意思なのだと。 「あたしは本気で、死ぬことを望んでた。そうすることで"あの人"に認めてもらえる気がしたから。なんで、あたし……」  最期に壊されて気づくのだ。死の間際、悪夢からの目覚め。  それは悪夢から目覚めた時にこそ、真の悪夢であるということに。 「だとしたら、裕二も何かの患者だったのか?」 「和達や木下先輩は、分からないっス。すいません」  親友のくせに気づけなかったっていうのかよ、俺は。くそっ。 「そういや美紀、いつものと薬を処方されたってまさか、LSDか!?」 「ハイになったんなら、メタンフェタミンだと思います」  すらすらと解説したあと、石井は手のひらで顔を覆い、ため息。「忘れて下さい」とだけつぶやいた。  薬物依存症。あいつの感情が不安定だった部分は、そのせいだったんだな。  "役"は分かった。あと気になったのは。 「美紀、俺が『出来上がっていると思うけど、これで仕上げだから』ってのはなんだったんだ?」 「それは──」  言いかけた美紀が、音も無く、胸に衝撃を受けてのけ反った。 「!?」  その場にいた全員が、虚を突かれた。   トン──と、音無き音が発せられ、かすかに残る風の音。  気づいた時には手遅れで、わずかに開いた倉庫の扉から、何かが放たれた後だった。
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