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胸に光る銀の凶弾。矢だ。
「美紀!」
誰よりも早く叫び、動いたのは石井だった。
固まっていた俺を押しのけ、美紀を抱きかかえる。彼女は正確に胸を貫かれていた。
「……寛治!? あたし……」
「身を隠せ! 狙撃だ!」
扉はわずかに開いていて、この延長線上にいるのはまずい。
本能で身を屈める。2発目は放たれたのか? 美紀は?
はぁはぁ荒い息を立てているが、生きている。
「先輩っ!」
石井が屈んでいる俺を蹴りつけた。一瞬、!? が浮かんだが石井の右足に矢が刺さっていた。
俺をかばって?
「おい、大丈夫か!」
これはボウガンの矢!? まさか。
「……先輩、逃げて下さい」
苦悶の表情で右足の矢を引き、這いつくばりながらも転がっていた銃に手を伸ばす。
倉庫の扉が開かれた。
「"あの人"が言ってたの。『試練は乗り越えるためにある』って。『貴女の前に立ちはだかる者がいるのなら、それは排除すべき敵、乗り越えるための障害』って」
逆光を背に、フードを目深に被った人物が立っている。顔はうかがえないが、声でわかる。
「お前、有里茜か!」
「花林先輩、その節はお世話になりました」
皮肉たっぷり、敵意のある口調だ。
「そりゃ、こっちのセリフだろ!」
有里は確かに死んではいなかった。俺の目の前で、和達に連れていかれただけだ。
誰かが解放した? 大輔か。和達か。それとも──"あの人"か。
ふと、潮風にのってかすかに鼻をつく刺激臭。この匂いどこかで!?
「落ち着いて、話し合おう、茜!」
胸を貫かれた美紀を気にしながらも、右足を射抜かれた石井が必死に叫ぶ。
「寛治。かんじ寛治カンジ寛治カんジ……もう、大丈夫。茜がいま、救ってあげるからね」
「……茜、全部オレが悪かった。全部オレのせいなんだ。何から伝えていいのか分からないけど、話し合いたい。謝りたい! 武器を捨てて、こっちへ来てくれ!」
右足を引きすりながらも、石井は気力で叫ぶ。
「あいつの狙いは俺だろ。俺が気を引くから、石井は美紀を連れて逃げろ」
「いいえ、オレが何とかします。全部、オレのせいなんで……」
俺と石井は、お互いに聞こえる声のトーンで話す。石井の手には銃が握られていた。
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