── を 信じてはいけない

17/19
前へ
/237ページ
次へ
「有里! お前の狙いは俺だろ! 狙うなら俺を狙え!」  しかし有里は、倉庫の入り口から動かない。警戒しているのか?  石井も美紀が気になって、倉庫の入り口と美紀、交互に視線を送っている。 「ごほっ」  美紀の口から吐血が漏れた。 「美紀っ」  たまらず石井が、足を引きずりながら向かうと、入り口に立っていた有里が、扉を力いっぱい殴った。『ドゴンッ』と音が響き、俺と石井は思わず、そっちを見た。 「寛治はやっぱり、花林先輩とその女が大事なんだ!」  有里が丸めた紙に、ライターで火をつける。なんだ!?  思い出した。漂ってきた臭い。あれは灯油だ。  放たれた炎がじわじわとそして大きくなっていく。俺たちがやりとりをしてる間、あらかじめ倉庫周辺に灯油をまいておいたのだろう。  倉庫自体は耐火性がなく、炎の勢いは徐々に加速する。廃材や薬品に飛び火すれば、大惨事は免れない。 「やばいぞ石井、美紀を抱えて──」  踏み出そうとした右足のすぐ横を、ボウガンの矢がかすめた。 「動くな! アンタたちはもういらない。焼けて死ねばいいのよ!」  憎しみに顔を歪ませた有里の顔は、まるで般若だ。心底ぞっとした。 リアルな死を予感したその時。 有里がその場から、慌てて飛び退いた。その直後、倉庫前に一台の車が急停車した。車は有里を狙ったようだ。 (なにが起こった?)  状況が把握できないでいると、今度は倉庫の扉が開かれた。  炎に包まれつつある、倉庫入り口にいたのは── 和達亮平だった。 「こちらです、早く!」  この状況で、迷っている暇はない。 「石井、お前も早く!」  手を伸ばすが、石井は美紀に寄り添い、小さく首を振った。 「いいんスよ。美紀はもう助かりません。自分も足をやられてますンで」 「お前っ」 「先輩、これ」  差し出されたのは、鈍色に光る鍵だった。 「これは?」 「先輩の探しもんスよ。行って下さい」 「花林先輩! こちらです早く!」  和達の叫び声。  無理に引っ張っていこうとしても、石井はここに残ることを選ぶだろう。俺はそれ以上どうすることもできなかった。 「先輩、オレは──」 石井は、美紀が死を偽装した時も茜が暴走拉致した時も、本心では恭介を助けたかった。こんな結末は望んでなかった。 「なんでもねえす。早く行って下さい」  石井の、最後の強がり。 「……石井っ、すまねえ」  倉庫全体が ギシギシと音を立て始めた。
/237ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1208人が本棚に入れています
本棚に追加