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「……そうだったのか」
美紀は人殺しにはならなかった。仇にならずに済んだんだな。
そして和達の腕は──
「有里にやられました。ワゴン車で強行突破を図ろうとしたので止めようとしたら、腕を挟まれてしまいまして」
事も無げに言う。脱出するために自から切り落としたそうだ。
「大事故じゃねえか! 有里はどうしたんだ?」
「私ともみ合いになり、山中を転がり落ちました。さすがに命はないかと」
意識を失いかけていたら、裕二と長野さんと、大輔を乗せた車が到着。
裕二たちが和達を止血し手当てしている時、大輔は「決着をつけてくる」と言い、施設内に消えていったという。
2人は後に続こうとしたが「カードキーのないオレたちとしてはさー、どうしようもなくってねー」と長野さん。
あえて語られることはなかったが、正美がもう十分早く、屋上に到着していたのなら、大輔は間に合わなかった。
満身創痍となりつつも、掴んでいたのだ。その決着を。結末を。
「和達、大輔は……」
「分かってます。最後にお礼を言えたので、私はそれで結構です」
和達は憑き物が落ちたような、穏やかな顔をしている。
「そうだ裕二、お前の形見……でもなくなったが、動画の他にもう1つ、謎のファイルがあったろ。あれはなんだったんだ?」
「ああ、あれかい? それは"あの人"佐渡正美さんの不正を暴く、切り札になるものさ」
マジか。俺がガセのつもりで言った『証拠』は、本物だったらしい。
◇
佐渡正美は、巧妙な手腕と優れた頭脳によって、自らが関わった痕跡をほとんど残していなかった。
加藤誠の裏権力と潤沢な資金を活用した、ビルや研究所の人払い、半グレの利用、細かな証拠の隠滅など。
ただ最初から、裕二は違和感に気づいていた。
加藤の立案で、花林先輩にドッキリを仕掛けますという企画が始まった。
親友を陥れることに協力するのは、本意ではなかったが、もはや事態は、裕二個人ではどうにもならない流れになっていた。
だから託した。あとで思い出すキッカケになればいい。
必ず『これ』が生きてくると信じ、最初のLINEを送った。
『飲み杉? どこの屋上? それって不法侵入だよ』と。
どこかで、五時の誤字を使うはず。そのことに気づいてくれればいい。
裕二は患者として従順なフリをしながら、細かな証拠を集め始めた。
音声データ、画像、佐渡正美と加藤誠の繋がりや、他のサークルメンバーの動向など。
もしかしたらこれは、何の意味もないかもしれない。だが、見る者が気づき、点と点が結びつき線となり、線と線が繋がり面となり、全貌に気付く可能性があるのなら──
シナリオ進行の流れから見ても、自分はどこかで殺されるのだろうと、覚悟は決めていた。
それらを一つのフォルダにまとめ、誤字の五時を使った動画と一緒に、駅のコインロッカーに入れた。
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