最後まで ── はいけない。

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 9月14日の夜、裕二のアパートに美紀が訪ねてきた。  正美さんの指示でと扉を開けると、銃を持った見知らぬ男──長野雅人と、美紀がいた。  死を覚悟したこの日──分かってはいたので、無駄な抵抗はしなかった。  あとで花林恭介と話をしてもらうからと、椅子に座らされ、縄で縛られる。   だが縛られながらも、雅人が耳元で囁いてきた。 「聞こえてっか? 聞こえてたら片目閉じて」 「……?」  雅人は口を動かさず、裕二にだけ聞こえる声量で続ける。 「キミさ、このままだと殺されるよ?」  裕二は返事をせず、小さく首を縦に振った。 「助けてやろーか?」  突然の申し出、雅人に視線を送る。 「ここで美紀ちゃんを殺せば、2人で逃走できっけど、どう?」  男の真意が分からない。 「何が目的? なんで僕を助けようと?」 「おらっ! 暴れんなって! じっとしてろやボケッ」  雅人は大声を上げて、裕二の頭を押さえつけつつ、耳元で話を続ける。 「今の組織を抜けようと思ってる。一番下っ端だしな、駒を増やして成り上りてーんだ。命を救ってやるからオレの下につきなよ? ん?」  従えばチャンスはくる。だけどその為には美紀を殺すと。  「お断りだ」  裕二も、雅人に聞こえるだけの声で返す。 「断る?」 「誰かを犠牲にして得る命なら、自分が差し出したほうがマシだよ。それが僕の結論だ」 「……馬鹿だな」  雅人はすっ。と裕二の側を離れ、美紀のもとへ。 「銃を撃つときは反動があるんでー、脱臼しないように気ぃつけて下さいね。まあ本当に撃つこともないとは思いますが」  雅人が美紀に銃を渡し、使い方のレクチャーをしている。  美紀はどこか虚ろな目をして、心ここにあらずな様子だった。  恭介に連絡するように指示をされ、手段はあえてLINEを選ぶ。誤字に気づいてほしいから。  もしもUSBメモリーを、恭介が見つけられなかったら。そして五時の誤字に気づかなければ、全てが無駄になるからだ。 「至急連絡がほすい」  しかしこれ以降のやりとりは、LINEだとマズい。から。  五時の誤字を解析される可能性がある。  恭介が五時の誤字に気づいたら、LINEではなく電話をしてきてくれるはずだ。  そして──電話が鳴った。 「もしもし……恭介かい?」  よかった。これで暗号を伝えることができるよ。
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