最後まで ── はいけない。

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 雅人さんの話では。  山中から、有里茜の遺体が発見された。和達は殺人罪に問われるのかといえば、片腕を無くし、施設に設置された防犯カメラの記録から、正当防衛が認められるとのこと。  加藤壮一は父親名義のオフィスビル三階で死亡が確認された。  死因は刺殺。ドアを開けた際、俺の指紋も残っていたはずだが、彼が死亡した時の俺のアリバイは、ここにいたことで立証されている。  あの研究施設についてだが、あの日は休業日らしく、研究員がいなかったのはそのためだったそうだ。  真取大輔と佐渡正美は、あの施設の屋上で発見。死亡が確認された、  あの研究は誰かが引き継ぐのかと懸念もあったが、佐渡正美が死亡時、全てのデータが消去されるようプログラムされていたらしい。 「研究者としての意地かねー。自分がたどり着いた成果を、他人に譲りたくなかったのかもな」  雅人さんは一人でうんうん頷くが、俺はそうは思わなかった。  あの人はそういう、負の感情が知りたかっただけで、残す気はなかったんじゃないか。と……思う。  石井寛治と蔵元美紀は、港倉庫での死亡が確認された。ただ最後は、手をとりあって天に召されたようだ。 「他に聞きたいことはー?」 「いや、ありがとうございます」 「また何かあったら邪魔するわ。ああそうそう、くれぐれもオレの素性は内緒なー。本当はダメなんだからさーわだっちゃんもさぁ~」  一人でぶつぶついいながらも、背中越しにひょい。と片手を上げて立ち去っていった。 「全ては……あの『箱』から始まったんだな」 「災悪を詰め込んた箱。まるで神話の『パンドラの匣』みたいだね」 「ありとあらゆる(わざわ)いを詰め込んだ箱のことか。絶対開けてはいけないと言われた箱を、好奇心に負けて開けたら、悲しみ・恨み・病気・死・盗み・裏切り・不安・争い・後悔などが飛び出してきたってやつだよな」  正美さんも、感情を知りたかった『好奇心』から、箱を造り、やがて禁忌に触れちまった。 「ただ、箱の最後には残ったものがある。『希望』だったよね」 「裕二は、『希望』って何だと思う?」 「……そうだね、何だろう。今こうして生きていて、明日を迎えられることかな」  満身創痍の怪我と心の傷。それはいずれ癒えるだろうが、決して消えない痛みもある。  人が辛いことや、恥ずかしかったことを、いつまでも忘れることができないのは、同じ過ちを繰り返さないためだそうだ。 「俺は今回の事件で、つらい経験をして大切な人も無くした。絶望しそうになったけど、どんなにつらいことも、いずれ『終わり』ってのは来るんだよな。暗闇も歩き続ければ光が見える。それが『希望』か」  サークルメンバーも2人になってしまったし、これから待ち受ける未来も、決して平坦なものではないだろう。  しかし未来は、分からないからこそ希望がある。  NG──現在では俗に、してはいけないこと。具合や都合の悪いことをさす言葉であり、ネガティブな要素が強い。  『──してはいけない』というワードには、散々苦しめられた。  しかし絶望を乗り越えた今、思うことは「最後まで『諦めては』いけない」。という言葉だ。  希望を否定してはいけない。俺たちは生きている限り、人生を否定してはいけない。  そう、俺たちは──最後まで、『希望を持たなくては』いけない。
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