1199人が本棚に入れています
本棚に追加
/237ページ
車は大通りに出た。
不審な車が尾行してきても、大通りのほうが有利だそうだ。
「なぜだか分かる?」
突然の問題。
「裏路地は、前後を塞がれると逃げられないし、目撃者にも通報されにくいからだろ」
「正解。さっきのハイエースの仲間がいないとも限らないから念のためね」
「警戒しとかなきゃな」
と言ったものの、俺は上の空。走行中の車という安心から、完全に油断していた。
「大学へは行かなくていいの?」
「それどころじゃねえよ。むしろ行くなら、警察かなって思う。正美さんは、どう思う?」
ちらりと顔をうかがう。運転中ということもあって、前を見たままだ。
「そうねぇ、確かに警察に駆け込めば、身の安全は保護されるでしょうね。私ならしないけど」
「人が殺されてるのにか!?」
「美紀ちゃんの件は、警察に通報したでしょう? ハイエースの男たちは今頃、事情聴取でも受けてるわよ。でもね、アンタの話を聞く限り、謎は一つも解けてないの。
真実を話す。と言われて、アンタはあのアパートに行った。でもその相手……美紀ちゃんは、殺されていた。彼女を殺したのは誰?」
「ハイエースの男たちだろ?」
「手を下したのは彼らかもしれないわ。でもね、その裏には、黒幕がいると思うの」
「黒幕?」
「指示を出していた奴よ。アンタを屋上に置いたり、追ってきた殺し屋? を雇ったり、美紀ちゃんを殺すよう指示した人物」
「……」
「心当たりない?」
「あるわけねえだろ。人に恨まれる覚えもねえ」
「気づいてないのは、本人だけってこともあるわよ」
「皮肉か? 正美さん」
「大真面目に言ってるの」
車がガクン。と大きく揺れた。交差点を曲がっただけだが、正美さんの苛立ちが運転に現れていたのかもしれない。
「……わりい。とりあえず心当たりはない」
「そうでしょうね。恨みのある人物なら、真っ先にアンタを狙うでしょうし」
言われてみればそうだ。
最初のコメントを投稿しよう!