第1章 吟遊詩人の一座

2/4
前へ
/63ページ
次へ
「シオナ、起きて。」 抑えた声に起こされて、シオナは慌てて起き上がる。 「おはよう。私寝坊してしまった?」 反射的にそう返すと、ノアラが微かな笑い声を立てて首を振った。 旅に出てからずっと、スセンとカラトと3人で過ごして来た所為で、起き抜けに2人ではない誰かがいるのは何だか違和感がある。 「交代の時間よ。ジリアもまだ寝てるし。」 隣を見ると、ジリアはまだ幸せそうに寝息を立てて眠っている。 「ジリアはちょっと寝起きが悪いのよ。気合いを入れて起こすから、そこ代わってくれる?」 言われてシオナは天幕の中を入り口に向かって移動する。 天幕の入り口の向こうはまだ薄暗く、日の出前の時刻のようだ。 天幕の入り口を潜って外に出ると、焚火の前のカラトがこちらを向いた。 「おはよう、シオナ。」 「おはようございます。」 早朝の森は肌寒く、虫の声が遠く響き渡っている。 「カラトさん、スセンは?」 「流石にまだ寝てるだろうな。」 習慣のように訊いてしまってから、いつもと夜番が違ったことに思い至った。 「そうでした。今朝は、スセンに私の作った朝ご飯食べて貰えるかな。」 照れ隠しのようにそう続けると、カラトが笑って手を振った。 「頑張れ、それじゃ俺はもう一眠りしてくるから。」 男子用の天幕の方へ向かって行くカラトと入れ替わるように、リトラが起き出して来た。 「おはようシオナ。朝は冷えるね。」 縦笛吹きのリトラは、シオナやジリアと同い年だが、中性的な顔立ちと、声変わり前の高い声で、構えなく女子の会話にも入ってくるので、ノアラやジリアも男子扱いせず、どんな会話にも混ぜている節があった。 リトラと2人焚火に当たっていると、ノアラと半分寝ぼけたようなジリアが天幕から漸く出てきた。 「シオナは料理は出来るの?」 リトラの問いにシオナは普通に頷く。 「うん。育った家では6歳くらいからは私がご飯作ってたから。」 それにリトラは意外そうな顔をした。 「シオナはお嬢さんなのかと思ってた。だってほら、司祭様のお弟子さん? 彼が君のこと凄く気遣ってる感じだったから。」 シオナはそれに苦笑する。 「スセンは、誰にでも優しいよ。」 答えたシオナに、リトラは軽く首を傾げたが、それ以上は追求してこなかった。
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加