第14章 告白

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ジオルとスセンが去って行った広場の焚き火の側では、妙な沈黙が流れた。 「何なんだ、あれは。」 トリクの呆れたような問いに、カラトはゆっくりと首を傾げる。 スセンと共に旅をするようになって一年余り、その間に何度かジオルの商隊と合流してしばらく行動を共にすることがあったが、あの2人が人目も憚らず言い争うのは初めて目にする。 「いやさ、今女子居なくて良かったなっていうエグい話しとか、殺すだの殺されるだの。」 確かに、スセンを取り巻く想像以上にやばそうな状況が垣間見えて、カラトとしてもちょっと引きかけた訳だが、トリクの問いに対する答えは持ち合わせていない。 「あー、あの2人のあれは親子喧嘩ですから、聞き流しておいて下さいね。」 そう言って口を挟んだのは、焚き火の側で食事の準備をしていた“隻眼の白描”の一員のレバロだ。 「いつもは、もうちょっと人目のないところを選んでやり合ってるんですけどね。今回はスセン様が心配掛けっぱなしで避け続けたから、商隊長も相当お冠なんですよ。」 レバロは確か、商隊では古株の隊員だそうで、スセンとジオルの関係も良く知っているのだろう。 「2人は親子なの?」 リトラが口を挟む。 「いえいえ、実際の親子ではないらしいんですが、商隊長がまだヴァラトヴァ大神殿で覡をやってた22歳の頃に、2歳のスセン様が入られて以来世話係兼護衛をしてたそうなので。二人の関係は親子みたいなものでしょう?」 確かに、スセンとジオルを見ていると、そんな遠慮のない関係に見て取れる。 「いや、だったら何で、殺すの何のって話しになるんだよ。」 トリクがまだ納得出来ずにそう挟むと、レバロはふっと優しく笑った。 「まあ、真相は分かりませんけどね。商隊長はスセン様のことを誰よりも大事に思ってますよ。多分、ご自分よりも。私が出会った頃には商隊長はもう片目の片腕でしたけど、あれは、スセン様を庇って失ったものらしいですからね。」 焚き火の側に何とも言えない空気が流れる。 「スセン様の方もそれに負い目を感じてらっしゃるようで、元来ご自分の身なんかと思ってらっしゃる節のあるスセン様が、ご自分の命を粗末になさらないのは、商隊長にその辺りを盾に取られてるかららしいですよ。」 何とも溜息を吐きたくなるような話しだ。 本音を言えば、カラトとしては聞きたくなかった。 「んー、まあその辺は放っとくとして、スセンは相当凄い覡なんだろ? 覡能力が強過ぎるのは、そんなに良くないことなのか?」 中々細かく食い下がるトリクに、レバロは肩を竦めた。 「覡っていうのは、巫女能力のある男性の呼び方ですけど、全体的に巫女よりも数が少なくて、余程力が強い者でなければ覡にはならないのだと聞きました。ですが、巫女と同様、神殿ではその力の強い者は神々に近い者として崇められる筈で、忌避されるという話しは聞いたことがありません。」 「やっぱり、嫉妬の路線か? 何にしろ、苦労してるんだろうな、あの歳で完璧主義になる訳だ。」 トリクは妙な納得の仕方をしたようだった。 そこで、カラトは隣からキルクの溜息交じりの言葉が聞こえてきた。 「つまりだ。シオナちゃんはどっちにどう転んだところで、司祭様と幸せになるっていう選択肢は存在しないってことだ。・・・可哀想にな。」 それには、カラトもぐっときた。 部外者がどうこう出来る問題じゃないのは解ってるが、あれ程いい雰囲気になっていた2人が、勿体無いと思ってしまった。
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