はじめてのお付き合い

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はじめてのお付き合い

 なおこ26歳。高校を卒業と同時に正社員として就職した会社に、今はパートさんとして雇われています。 なぜパートさんになったかと言うと、家庭の事情で家事手伝いをすることになったからです。その頃の直子のスキルでは、家事と仕事を両立するのは至難の技だったので、仕事をやめたいと勤め先の社長に相談しました。  本当は前からヤバいと思っていた会社をやめたいと考えていたことも手伝って、直子の祖母が、 「もう家の事はできない。」 と口にした時、直子は即座に、 「私がやる!」 と言っていたのでした。  祖母は直子の父の母親で、その頃すでに84歳でした。なぜ彼女がその年になるまで家事をするはめになったのか。それは、直子の母親が病弱で長期入院をすることになり、母親の代わりに家事をたくされることになったからです。  話が横道にそれましたが、直子が会社を辞めたいと社長に相談すると、 「あんたが辞めて代わりに一人雇うほど忙しくないし、パートでもええから続けて来れんかな?」 と社長に言われ、彼女はパートさんになりました。  ”本当はやめたかったのに、まっいいか。゛と思ったのが運の尽き。国民健康保険、国民年金に切り替えられ直子が負担する保険料は増大。もちろん収入は半分になり、まるでボランティアをしているようでした。  それでも神様は見放さないでいてくれたのか、縁あって取引先の男性とお付き合いすることになりました。彼は直子より5つ年上で、背は少し高いくらい。ずんぐりむっくりでちょっと頼りない感じでしたが、仕事で話をするうちに気になり始めました。  ある日会社で小さな地震が起きました。 「あっ、地震だ…。」 と彼が静かに言い、その瞬間、直子の目と彼の目があい、不思議な感覚が…。    なんだか、脳と脳が交信し合う。みたいな…。波長があったのでしょうか。 それからしばらくして、直子は彼の電話番号を知り合いから聞き出しました。彼女から男の人にアプローチするのは初めてで、とてもドキドキしました。 「もしもし、こんにちは、山田さんのお宅ですか?河原直子です。」 「えっ?どうしたの?」と彼。 「あのー。及川さんから電話番号を教えてもらって…。」と私。 「なんだ、そうなんだ…。うーん、今ちょっと暇だから、ちょっとどこかでお茶でも飲まないかな?」と彼。 ゛なんか誘われちゃった。お茶でも飲まない?なんて、なんだか言いなれてる感じだな?゛なんて思いながら、数十分後に合う約束をしました。  少し郊外にあるベーカリーカフェで約束通り会い、なんてことはない話をしたのでした。 「なんだかここに転勤してきてから、いいことばかりあるんだ。」 彼はそう言って大好きなコーヒーを口に運ぶ。  ”ってことは、私が彼にちょっかいを出していることがうれしいってことなのかな?” なんだかあまりにもすんなりと、彼といることが当たり前のような空気に直子は居心地の良さを感じました。友達と話をしているみたいな差しさわりのない雰囲気で、ドキドキするよりも温かさを感じていました。しばらく彼の昔話を聞かされた後に、また今度遊びに行こうねということでその日は別れました。  それからは、まるで友達の延長のようにご飯を食べに行ったり、お酒を飲みに行ったり、ドライブに行ったりしていました。  彼と付き合い始めて数か月がたった頃、祖母から直子にお見合いの話がありました。 「私付き合っとる人がおるから。」と祖母に言うと、 「そんなら家に連れてきて話をしましょう。釣書も貰ってきなさい。」 ということで、彼に相談すると、何と直子に釣書をくれるではありませんか。 なんだか、順調に進む話にいままで縁がなかった彼女は、有頂天になっていました。 ”幸せってこういう風に進んでいくんだ。” そして、彼を自宅へ招待したのは良いものの、彼女が想像していたような対応ではなく、彼を責める図。お茶も出さず。祖母と父親でどういうつもりでうちの娘と付き合ってるのか?と…  少し迫力がありすぎだけどこんなものなんだろうと、有頂天になっていた直子は彼のことも気遣わず。自分だけ幸せだと思っていました。 「家の人に僕のこと、どう話してるの?」 「まだそんなに付き合ってないからようわからん。って言ったけど。」 「結婚したら親戚づきあいとかあるし、たぶん僕の家とは合わないんじゃないかな。」 「でも、本人同士の問題じゃないの?ずっと転勤してて、親といつも一緒にいるわけじゃないし。」  彼としては直子とはそう長く付き合っているわけでもなく、深い関係でもないのに、親がでてきて、付き合っているのが悪いように言われ、かなり迷惑していました。 自分のことしかわからなかった直子は、それでもまだ付き合っていけると思い込んでいましたが、結局のところ別れることになったのです。 「やっぱりこのまま付き合うのは無理だ、別れよう。」 「男はずるいよ。」 と彼は自分で自分の事をそう言いました。 あまりにもバッサリ切られ、嫌だと言うことも思い付かず、直子は素直に承諾しました。  彼とは別れましたが、会社では顔を合わせ仕事を一緒にすることもあり、直子はかなりつらい時間を過ごしました。  ある日彼女は決断します。高校卒業と同時に入社した会社を、やめることにしました。 日頃から中途半端な働き方をしていると思っていたことと、彼と別れたのが良い機会になりました。  会社をやめたと同時に、長いこと病気で入院していた母が急逝しました。 母は直子が小学生の頃から入退院を繰り返していました。 直子が中学生のある日、学校から家に帰ると、 「明日入院することになったんよ。」と母親が言い、 「また入院するん…。」 直子は母にとって残酷な言葉を無意識に漏らしました。  世間と同じように、何時でも母にはそばにいてほしかった。母にやってほしかったことも、すべて自分でやるしかなくて…。 でも、それが当たり前になっていきました。  
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