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ドライブ帰りの夜
「あ、チンコ屋」
行く手でピカピカ光っているネオンサイン看板を指差すと、助手席の妻がふいっとそちらに顔を向けた。
「ああ、パチンコ屋。パのネオンだけ消えるお店って多いのね。よくネタになってる」
妻は下ネタを異様に嫌う。こんな話題に付き合ってくれるなんて珍しい。
「いや、この店は、そんじょそこらのネタとは違うんだ。もう少し近づいたらよく見て」
少しスピードをゆるめて看板の下を通りすぎる。助手席の左の窓から看板を見上げた妻が呟く。
「パが入る余地がないわ」
「そうなんだ。昼間見てもこの店はチンコ屋なんだよ」
「へえ」
こんなアホな話なのに妻が相づちを打ってくれるのが嬉しくて、私は続けた。
「しかも、この店のパチンコ玉は金色なんだ」
車内に静謐が満ちて、妻は三日間、無言だった。
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