終章 神様みたいに

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終章 神様みたいに

 先に目が覚めた。隣では彼が眠っている。  僕はそっとにじり寄って、一成の横顔を眺めた。時々ぎゅうっと眉が近づいて、苦しそうに顔が歪むから、頭を撫でてあげるんだ。  悪い夢でも見てるのかな。  前は僕もそうだった。白志多にいた頃は。お化けから逃げようとして、走って、走って、何かに足を取られて、転んで、転んだそこは底なし沼で、泥が僕を引きずり込もうとする。そんな夢を、よく見ていた。  いまは夢を見ない。ゆったり眠る。たとえば真夜中や、明け方に目が覚めたとしても、怖くなんかない。  だって、僕はもうなんでもできるんだから。  いろんな人が僕に声をかけてくる。誰も僕を無視したりなんてしないし、おかしい子だって言われることもない。言われるのは、かわいいとか、かっこいいとか、若いのにえらいねとか、そういう言葉。お友達になってくださいなんて頼まれたりもする。そういうのを、恋人がいるからって断るのは、だいぶ楽しい。本当にえらくなったみたいな気持ちになるから。  僕はなんだってできる。 「ううん……」  一成がもぞもぞ動いた。息が荒くなって、頬がぱっと染まる。  僕はちょっと首を傾げる。  さっきとは違う夢を見ているのかもしれない。もしかして、僕のことを夢に見ているのかも。そうだったらいいな。夢の中でも、彼は僕といるの。  僕は一成にキスしてあげた。一成はため息をついた。  こうして眠る彼を見ていると、隣にあの人が寝ていた時のことを思い出す。あの人はよく、寝ている僕の腰を掴んできた。その前にも一回したんだから疲れていて、眠くてたまらないのに、脚を開かれた。嫌なことをされた。そういう時は決まってあの人が先に寝てしまうから、横顔を眺めながら僕は思うんだ。  枕で顔を押さえつけたら、きっと殺せるって。  簡単だ。力いっぱい押さえるだけ。抵抗されるかもしれないけど、上に乗って、体重をかけてやれば、きっと大丈夫。  やってやればよかった。あんな人、殺してやればよかったんだ。何度もそのチャンスはあったのに、要するにその頃の僕には勇気がなかった。  だけどいまは違う。いまならできる。いまなら、なんだってできるんだ。  もちろんいまはそんなことしない。だって、隣に寝ているのは一成だもの。  僕は彼が大好き。僕は幸せ。彼は僕のもの。いまも、これからも、ずっとずっと、この世の終わりが来るまで、ずっと、ずっと、ずうっと。  僕はなんだってできる。神様みたいな気分だ。  まだ眠い。僕は目を閉じた。時計の針の音を数える。  いち、にい、さん。  お化けが来るよ。 終わり

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