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scene94*「そっくりさん」
あたしがミカだったらよかったのに。
心底そう思った恋。
【94:そっくりさん】
ミカはアラシが好きで、あたしもアラシが好きだった。
でもアラシが選んだのは、ほっとけない感じのミカのほうだった。
ミカとあたしは顔がすごくそっくりな一卵性双生児。
(中身なんだな……)
そう痛感したのは今まで幾たびもあった。
だけど、「ミカになりたかった」と心から痛感したのは人生で2度目だった。
あぁ、あの時の彼もミカを選んだんだったなと思い出して、胸の奥が鈍く痛んだ。
「ユカー!数学の教科書貸して!!」
「また忘れたの?仕方ないな~。ちょっと待ってて」
騒がしくやってきたのは隣のクラスにいる双子の妹のミカだった。
おっちょこちょいのミカとしっかり者のユカの双子コンビ。
みんな周りが思ってるし親もそう思ってる。あたしだってそう思ってる。
ミカとあたしは背丈もほとんど一緒で声も似ている。
ただ、ミカのほうがほっとけない性格なのだ。
まさにおっちょこちょい。甘えん坊だし甘え上手。
それと対照的な、あたしの性格。
なんでなのかなぁ?
だからこそなのか、ミカはまわりから大事にされる。そこが私にとってはコンプレックス。
でも、嫌いになれない。やっぱりあたしも頼りないミカが何だかんだ好きだから。 ほっとけない可愛い妹だから。
ミカに教科書を貸しながらお姉さんぶって言ってみせる。
「はい。5限までには返してよね~」
「りょーかい!さんきゅー!」
「そーやってるとさ、ホントそっくりだよなぁ」
「あ、アラシだー!まぁ双子だからね!でもユカとあたし間違えないでよー」
「間違えないっつの。声もよく聞けば全然違うし」
それを見た同じクラスのアラシがからかってくる。
何気ないその言葉が、ちくんとあたしのハートに突き刺さる。
「なぁ?ユカ」
振り向いた笑顔。せつないよ。
「そりゃそーだって。間違えたら刺すよ」
「怖えーねーちゃん!」
「ちょっと!あたしのお姉ちゃんに失礼なこと言わないでよね!」
「冗談、冗談!」
笑う二人、見てて痛いよ。胸が苦しい。
でもあたしがアラシを好きなのは二人とも知らない。誰も知らない。
あたしのほうが先にアラシを好きになったのに、友達のポジションで精一杯のあたしを簡単に飛び越えて彼女のポジションにたどり着いちゃったミカ。
おんなじ顔なのに。
おんなじ声なのに。
アラシが好きになったのは、違う心を持ったミカのほうだった。
でも、あたしは二人が大好きだから、大切だから笑うんだ。
すごくすごく悔しいけど、悲しいけど、ミカに敵わないことはあたしが一番知ってるから。
誰も、あたしの涙には気づかない。
アラシに好かれるなら、それならあたしはミカになりたかった。
なれるものならミカになりたかったよ。
そう叫びたいのにグッとこらえるあたしは
可愛くないな
そう自分で思って、アラシの肩を叩いたのだった。
( 私の事も見ててほしかった )
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