scene96*「毛糸」

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scene96*「毛糸」

作ってもハッキリ言わない だれかさんになんて、あげない。 【96:毛糸 】 何やってんだよ、と、話しかけられて顔をあげたらアカイがいた。 「何やってるもなにも、編み物ですが何か」 よそよそしく答えてみせると、ハッと思い切り馬鹿にして鼻で笑われた。 それがなんだかカチンときたので、ぷいと下を向いて編み続ける。 それは赤い赤いマフラーを。 とりあえずうちの高校はどこかの部に在籍だけはしなくちゃいけないから、新聞部なんてのは名目上のことで、アタシもアカイもただここに在籍してるだけ。 それでも部室だけはちゃっかりあるから、バイトとか何もないときにみんなふらりとやってくる。 やってきてはくだらない話したりお菓子食べたり、まぁコミュニケーションをとっているわけだ。 うちの学年の女子は家庭科の授業で編み物を習ってからというもの、いよいよ寒い季節の到来もありクラス中で編みまくっている。 みんな馬鹿みたいに編みまくって、暇をつぶしている。 誰にあげるわけでもなく、ひたすら編んでいる。 その中の一人にいる私をバカにしてるくせに、アカイは白々しく言う。 「へーぇ。俺マフラー欲しいと思ってたんだよね」 あーそうかい、と思いつつも面倒くさくて答えなかった。 シカトし続けた私はひたすら指先を動かす。 「んだよ。無視かよ。塩対応女子め」 アカイが私の事をこう言うときはきまって、かまって欲しいときだ。 最初はカチンときたけれど、結構子供っぽいんだなと分かったら可愛いもんだと思えるようになった。 アカイとは中学が一緒で、高校になってから何となく話すようになった。 女子の一部ではカッコイイとか言われてるけど、私にとってアカイはアカイだ。 「てゆーか、男が真っ赤なマフラーしてたらキモいんですけど」 独り言のように言った私は、目が疲れてきたし肩も痛くなってきたので、指をとめて背伸びする。背中の筋肉がうんと伸びて気持ちがいい。 「赤は俺のラッキーカラーだ」 「わ、きっしょ。てゆーか何よ、いちいち何なわけ?アタシはこれ自分のために編んでんの」 「うわ、誰も貰ってくれるやついないのかよ。さみしーの」 「もーうるさいなぁ!」 「だから俺が貰ってやるって言ってんじゃん」 「バッカじゃないの。アカイが赤いマフラーしてたらギャグだし」 「バカだよ」 「は?」 アタシのマフラーへと続く、赤い玉っころを手に遊びながらニヤリと笑う。 あぁ、あともう二玉買わないととその時に思う。 あたしは実のところアカイの気持ちをもう随分前から分かっていて、あたしはというと……実はよくわかっていない。 分かっていないからどうすることもできない。 どうすればいいかわからないあたしに、赤井も随分手を焼いている。 「だけどお前はもっとバカだけどな」 「うるさい」 「あー。俺も編み物しよっかなー。誰かさんとオソロイにしてもいーよ」 「じゃアキちゃんのピンクとオソロイにすれば」 「ケイ」 下の名前を呼ばれて胸がはねた。ハッとして見ると赤井と目が合う。 するとプッと噴出されて「アホ面」と言われた。 それが何だか悔しくて赤井の手に目を落とすと、赤い毛糸が小指に絡んでいたものだから、 「ハッキリ言わない事なんか知らないんだから」 そう意地悪を言ってやった。 今のアタシは、きっと顔の赤いひとなんだろうな、と思いながら。 ( ケイとアカイの赤い糸 )
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