scene13*「お絵描き」

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scene13*「お絵描き」

「絵心ねぇなぁ」 「そっちこそ」 紙ナプキンの上で繰り広げられるお絵描きバトルは、なかなかにやめられない。 【13:お絵描き 】 学校帰りに寄ったツタヤで隣町の高校の制服に身を包んだ、見覚えのある顔を見つけた。 中学で同級生だったアンドウだった。 アンドウはCDコーナー前で熱心に試聴をしては、CDジャケットと睨めっこ。 中学卒業してからはたまに顔を見かける程度だったので、気軽に声をかけるには久しぶり過ぎてか少し照れくさくて、私は声をかけずに暫くアンドウを観察していた。 今は夏休みなんてすっかり終わり、授業は元通りのかったるい6時間コース。 だんだんと風は秋の匂いを運んできては、焼き芋やカボチャの美味しい季節だなぁ、なんて考えてしまう今日この頃。 今日も、そういえば好きなアーティストのアルバムの発売日はいつだろうなんて授業中に思い立って、 漫画の新刊あるかもしれないし定期的に読んでる雑誌の発売日も過ぎたし、そんなついでの気持ちで寄ってみたらアンドウを見かけた次第だ。 それにしてもアンドウ、試聴長すぎなんだけど……私はいいかげん話しかける事にして近づいた。 「よっ、何してんの」 肩を叩いてみる前に、近づいた私にアンドウは気がついてしまった。 驚いた顔をしてヘッドフォンをと取り「よお。お前何してんの」と、なんとも間抜けな発言をした。 「いや、何となくツタヤ寄ったらアンドーが居てビックリしたわぁ。実はさっきから見てた。CD買うの?」 そう言うと「マジで?!」と更に驚き、声をたてて笑った。 相変わらず、些細な出来事でもオーバーに笑う奴だなーなんて思う。 「いや、迷ってたけどやめた。保留にしとく。てか会うの久々だな」 「ほんとほんと。本屋にしばらく寄ってないなって思ってたまたま来たらアンドウがいるんだもん」 「俺もだわ。何、これから帰んの?」 「欲しかった本も買ったし、まぁボチボチ帰るかなと。帰っても暇だけど」 「まじで?俺も暇なんだけど」 「まじか!せっかくだし、よかったらそこのマックでダベる?」 「俺腹へってるしちょうどいいかも。新商品の食べたすぎなんだけど」 「あたしもそれ気になってた!CMやばいよね~」 「あれは食いたくなるわ」 そんなこんなで、私達はツタヤの向かいにあるマックに行く事にした。 マックについて注文したものを一通り食べて、落ち着いたときに中学校の時の話になった。 担任は異動してしまったとか、誰と誰が付き合ってるとか、別れたとか、そんなんばっか。 「マジで?」 「そうなんだってさー」 「うっわ、それマジでキツイな」 「だよね」 適当に振った話題に、それなりの返事とリアクション。 そうして、一体どこからか方向が逸れたのか、気がつけば私達は紙ナプキンに落書きをしていた。 「ミッキーって難しくね?」 「ミッキーなの?つかそれダンゴが三つあるみたいなんだけど」 「もはやミッキーじゃねえな」 「今度は何描いてんの」 「ミツヒコの母ちゃん」 「ミツヒコって誰だし!?」 私達は店員に怒られないように、隅っこの席で悩みながら、爆笑しながら描き続けた。 「お前絵心ねぇなぁ」 「そっちこそ」 大量に落書きされた紙ナプキン。 インクがところどころ滲んでたり、つまってかすれてたり。 そうして、その残骸をどうしようかという話しになった。 「どーするよこれ」 「捨てるのも何かアレだよね……」 「かといって持ち帰るのも……」 しかし、捨てられないほどのレベルを持ち合わせた絵などでは決してない事は一目瞭然。 そのくらいに描かれたキャラクターたちは、うさんくさい出来ばかりだった。 本当に私たちは絵が下手なんだなぁと再確認するほどに。 「あ!!!」 アンドウは何か面白いものを見つけたみたいな子供のような笑顔になり、思いついた案がそんなに面白いのか、一人でブフッと含み笑いをした。 その笑いがあまりに謎過ぎたので訊ねずにいられない。 「何。どうすんのこれ」 「これさ、ラブレターに見せかけて、誰かん家のポストにいれねぇ?」 「悪戯って事?」 「ジャスト!……あ、間違えた!ビンゴ!!」 ターゲットを相談しあった結果、アンドウと同じ高校で近所に住むナメカワ君になった。 ナメカワくんは……ポジティブに分かりやすく言ってみれば、おバカ男子の代表という感じだ。 もちろん人気者ではあるのだけれど、おバカなトラブルの元にはナメカワ君ありっていう座右の銘がついてしまうほどに、ちょっと……いや、だいぶ面白い。 おバカでトラブルメーカーだけど、人柄はすごく朗らかだからか高校でも人気者は変わらないらしく、最近はモテを意識してるらしい。 しかしいかんせん、中身があのままだから結局モテてないで、お人よしで恋のチャンスを自分から逃してばかりらしい。 ナメカワ君への悪戯を結託した私達は、スーパーの文具コーナーに行きなんとも可愛らしい封筒をわざわざ買い、ピンクの文字でなるだけ女の子らしく宛名を書いた。 出来上がりを見て、二人してまた爆笑。 ……相当趣味の悪い悪戯だけど、勿論ちゃんと種明かししてフォローするつもりだ。 「あとはポストに入れとくだけか!」 「ナメカワ君、絶対マジにするよね」 手紙を託すと、ファイルの中に大事そうにしまった。 こうしてると、本当に中学に戻ったみたいで……あぁ、これで離れてしまうのが惜しいなぁ、と正直に思った。 「アンドー」 「なに?」 「また遊ぼうよ」 「今度はナメカワも誘うわ」 「そうしてwwwモスをお詫びにごちそうしてあげよう」 ……きっと彼女が出来たら、この返事も歯切れ悪くなるんだろうなぁと思った。 勿論私だって彼氏ができたら同じかもしれない。 だけれど、今の私にはそれが何だか寂しく思えて、持っていたペンを指先で遊んだ。 私がアンドウを見かけてちょっと嬉しかった気持ち、知るわけないよね。 目の前で無邪気に笑うアンドウを見て、ちくりと胸は痛んだ。 このどうしていいか分からない気持ちの信号。 だけど私は、何にも言わずにこのまま友達をしてくんだろうなぁと、ボンヤリ感じては悟られないように笑顔を作った。 ( 名前がつかないこの気持ち )
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