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scene16*「かなしいこと 」
テーブルの上においてあるセブンスター。
あの人の真似をして、あの人になりたくて、選んだ煙草。
その味がすきなわけじゃない。
【16:かなしいこと 】
『あたしたち、付き合うことになったんだー』
「え……」
親友の報告を聞いて、私の口から出た言葉は、それしかなかった。
思わず出た唯一の本音。
それからよく覚えてない。
しかし人間って不思議なもので、
自分が辛いくせに馬鹿じゃないのと言いそうになるくらい自分の事のように喜んで、
言いたくも無い言葉が嘘みたいに出てきた。
口にしたお祝いの言葉は自分の中では嘘なのは分かり切っていて、
まるで自分に向けてナイフを刺してるようだった。
(知ってたくせに。あたしも、彼が好きだったの……)
唯一の本音はどこかへ消えてしまった。
消し去るを得ない状況。
あの状況が何度も頭でリフレインして、煙草を出して、ライターを探した。
今日ほどテレビ番組の内容がクソつまらないなんて、思ったことが無い。
ライターが見当たらなくて苛々してしまう。
たまらない。面倒くさい気持ちになりかけたところで、フッと煙草のケースを見た。
あの人が吸ってた煙草の銘柄。
真似してみただけよ。煙草なんか本当は好きじゃない。
あの人に近づきたくって、もっと分かりたくなって、あの人になりたくって……。
最初はただ持ってるだけでよかった。
なんとなく同じもの持ってみて、なんとなく吸ってみて。
気づけば恋をしていくうちに、その苦さが自分にしっくりきてた。
じんわり広がる苦さが、胸の鈍い痛みと似ていてそのまま吸い続けていた。
でもきっと、あの人はこの煙草じゃないんだろうなって思う。
彼女ができると何故か煙草変えちゃうんだわ、なんて飲んだときに言ってたから。
あたしは煙草を唇から離して、テーブルへ置いた。
口紅でほんのりピンク色についたフィルタ部分。
むかつくぐらい「おんな」である私を、象徴してるみたいだった。
こんなあたしは、きっと可愛くない。
それでも、好きでもない煙草吸っちゃうくらいに
そんな中学生みたいな真似事するくらいに
純粋に純粋に、あなたが好きだったよ。
鼻の奥がツンと痛い。
じわじわと目が熱くなったのを感じて、思わず
「煙なんかどこにもないのに」
そんなことを無理に思った。
( 煙草なんて本当は、だいっ嫌い。同じくらい嫌いになれたらいいのに。 )
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