scene3*「森の中」

1/1
21人が本棚に入れています
本棚に追加
/115ページ

scene3*「森の中」

「森ガール」とやらになりたい私。 そんな私と、「森の中を歩きたい」という彼氏。 【3:森の中 】 「あ~マジでこの女優さん可愛いんだけど。最近映画にもひっぱりだこの子だよね。ホラ、この服とか超カワイイし」 「あーハイはい。森ガールね、森ガール。略して森ガ」 「何かそんな風に略されるとイラッとするんだけど」 部屋で一緒にご飯を食べた後のコーヒータイム。 私はファッション雑誌に夢中で、ごろごろしながら読んでいた。彼氏はかったるそうにテレビを見ながら私を茶化す。いつもと同じ光景だ。 森ガールというのは、北欧の物語や、森の中にいるような雰囲気の服装をする女の子だ。 レースとかブーツとかニットとか、カジュアルでナチュラルで、それでいてガーリーな感じ。 しかし、そんな事を彼氏に説明すると 「うっわ。なにそのギョーカイ用語みたいなの。わっかんね~」 とバカにする。 そのくせナチュラルな女優さんのほうが好みなんだから、またそれでイラッとしちゃう。 「なぁ」 「ん?」 「じゃあさ、今度その森ガみたいな格好して、森でも歩いてみようか」 「え~。何それー。てか森ガはやめろ、森ガは」 「いいじゃん」 「じゃあ、気が向いたらね」 「気が向いたらじゃ困るんだよ」 「はぁ?」 「森の中、歩こうぜ。ガチで」 「頭打った?どしたの?」 「打ってない、打ってない。で、歩く?」 「あーはいはい。分かりましたよ」 投げやりにそう言ったら、いきなり爆笑された。 その状況が私にはまったく理解できず、問いただすと、彼は笑いながらこう答えた。 「俺の仕事さ、装丁のデザインじゃん?それでこないださ、本屋である小説の表紙が目に留まったから手にとったわけ。恋愛短編集だったんだけど、中身も大事だからちょっと読んでみたんだよ。その中で、ある作家さんのストーリーの中に、こう書いてあったんだ。 どこかの民族かも俺忘れちゃったんだけどさ、要はそこの民族で「君と森を歩きたい」って言うのは「セックスしたい」って意味なんだって。 逢い引きできる場所が森しかないとこなのか、人目につかないでデートしたりセックスできる場所がそこしかないから、昔からそこの民族の間じゃ、そういう意味なんだって」 バカじゃないのか。 思わずそう言うと笑いながらもゴメンごめんと、起き上がった私の頭をポンポンと撫でた。 ああもう。 果たしてそれは、その国では、愛の言葉なのかどうなのかしら。 なんかこういうバカな部分も、私は大好きなんだろうな。 だけど悔しいから、 「アンタと森の中なんて、迷って出られないから遠慮しとくわ」 意地悪にそう返してやると、彼はまた、笑ったのだった。 ( それは「結婚貧乏」というアンソロジーでした。 )
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!