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000-現実
正式にはしゃっくりって言うらしい。しゃくり上げるからしゃっくり。そのまんまと言えばそのまんま。
ひゃっくりと言えば、100回止まらなかったら死ぬ、なんて小学生のころ誰かが言ってた。一時期信じててめっちゃ怖かったなあ。女子の間ではわざわざ、お腹の筋肉が壊れてすごい血が出る、なんて変な理由まで語られちゃって。
今考えればバカバカしさしかないんだけど、当時はまことしやかに聞こえたんだよね。
でも今は大丈夫。ひゃっくり100回の恐怖に怯えたあの頃から10年、ひゃっくり止めるテクニックは身につけた。迷信だって笑い飛ばせる。ついでに高校卒業もできた。歩いているのは、通い慣れた最後の通学路。セーラー服も今日でおしまい。
ひゃっくりの止め方教えてくれた先輩とも、よく二人でここを歩いたなぁ。先輩が卒業したあと関係は自然消滅しちゃったけど。
そうそう、ひゃっくりの止め方の話。
思いっきり息を吸い込んで、これ以上吸えない!ってとこまで吸ってから、なんて言うかな、さらに息を飲み込む感じ。とにかく肺に空気を詰め込む。で、その状態で止められるだけ息止めるの。横隔膜を伸ばしっぱなしにして、痙攣を止めるんだとかなんとか。わりとそれっぽいやつ。
でもね、これ結構疲れるんだよね。息止めてるの苦しいし。最終手段って感じではある。
普段やってるのはもう一つ、先輩が教えてくれたやつ。ちょっと胡散臭いんだけどさ、イメージで止めちゃうの。「自分の身体なんだから自分でコントロールできる」って強い意志で、みぞおちあたりに意識集中してね、こう、止まれ…止まれ!って。これが意外と効いちゃうんだよね面白いことに。まあ、ダメなら息止めればいいんだし。
さて、この道通うのも最後だし、せっかくだから寄り道でもして帰ろうか。
わりと交通量の多い道ではあったけど、三年間平穏無事に通学できたことには感謝かな。
なーんて。
何あれ。
トラック。めっちゃこっち来る。ガードレール踏み潰してすごいスピードで。
白いな。いや色はどうでもいい。避けたい。でも足が動かない。なにこれ、なにこれ。止まらない。死ぬの。私死ぬの。
ひゃくっ。
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