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「どうした?」
「ううん……何でもない」
「ん?キスが足りない?そうかそうか、わかったよ海斗くん、仕方ないなあ……」
へらへらした顔で真咲が顔を近づけてくる。
「ぶっ、何だよそれ!」
思わず吹き出すが、キスが足りないのは事実なので全て受け入れる。
「ああん、ちょっと、さっきから首ばっかじゃん!んん……んん…………こら、止めろって……こーらー!」
「止めていいの?だって一番感じるんだろ、首」
「ん……くっそ!」
真咲を思い切り突き飛ばしてやろうとしたが、全然体に力が入らず、反対に両腕を押さえつけられてしまう。いつもなら絶対に負けないのに。バスケでどんだけ筋トレしたと思ってんだ!という気持ちも虚しく、腕を振りほどくことがどうしてもできず、じたばた足を動かすのが精一杯。
「何やってんの?」
相変わらず腕は解けないので両足で布団を蹴る。
「遊んでんのかな、海斗くん?」
見るまでもないが、にやついた真咲の顔が目に飛び込んでくる。
「ううん、もうあきらめた……」
「ええー、つまんないな」
「とりあえず……もっとキスして」
真咲は声を出さずに微笑み、オレの両腕を抑え込んだまま顔を近づけてきた。目をつぶらずに真咲の顔を寸前まで見つめる。キスするかと思ったが鼻に鼻を擦り合わせてくる。
「犬っぽいね」
真咲がぽつりと言う。この部屋にその言葉しか落ちていなかったみたいに、オレの頭が簡単にその言葉を拾い上げる。
オレは笑う。なぜだろう、笑いながら、見えるはずもない未来が天井に鏡のように映っている気がした。
オレは笑い続ける。腹筋が痛くなるまでずっと。いつまでもいつまでも……
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