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つんつるてん & ずんぐりむっくり
「やめろ。白い目で見られるじゃないか!」
私は渋々、足を止め、廊下で振り返った。思ったより周りに生徒や先生がいて、焦る。笑い声。ひそひそ声。皆の視線に耐え兼ね、慌てて口を押さえた私は、咳払いを一つし、普段通りのお客様向きの声で応じたのにだ。
「何か、御用でしょうか。急いでいまして」
興奮した大型犬のような燥いだ声を上げ、一足飛び。私との距離を縮めた俊足に驚く。間も無くして、息の触れる近さで笑い転げ、からかいついでに私の長い髪を指で払った。逃げられず、捕まって、スカートが揺れる。
「髪、伸びたな。サラサラ。すごく綺麗だ」
一瞬で、私は、仮面を砕かれた気がした。耳が熱い。息ができない。目眩がする――。
「何か、話せ。何か、言え。喋れったら! 君はアンドロイドなんかじゃないだろう?」
大きな厚い手のひらがほっぺたを包んで、上を向かせようと、強引な力で引き寄せた。私の胸はショックを受ける。これが恋かと。
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