プロローグ◇届かぬ手紙

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プロローグ◇届かぬ手紙

 書く時、紙の上でペン先が軋む音が好き。読む時、ページを(めく)る指先の鳴る音が好き。それが聞こえるくらい静かな部屋が好きだ。  お気に入りの恋愛小説の表現を引用して、去った人に、もう届かぬ手紙を書いている。近況や他愛もない話も寄せて。無意味だが、これが孤独な私の日課なのだから(むな)しい話。  私は泣いたことがない。というのは、嘘。いつでもどこでも思い出せば、涙を流せる。特技は嘘泣きで、女の武器(・・・・)を武器にする女。クラスメイトにはAndroidと呼ばれている。無論、皮肉だ。私には、友達がいないから。
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