78人が本棚に入れています
本棚に追加
/63ページ
スタコラサッサッサのサ♪
「はっはーん、いない、いないと思ったら」
手を止め、大学ノートから顔を上げると、背の高い少年が立っていて、ニヤニヤした。肩までのレイヤーの入った明るい色の茶髪。だらしなく腰履きの着崩した紺色の学生服。靴紐のほどけたスニーカー。肘には絆創膏。私に話しかける人なんて、一人しかいない。
「こんなところにいて、また本、読んでる」
顔は知らない。よく見たことがないのだ。これも嘘。断言はできない。記憶が曖昧だ。正確に言えば、一年前の顔なら知っている。また理由があるとすれば、時が流れたこと。背が低く、目が悪い私。それから一匹狼で、煩い狼少年と関わりたくもないからだった。
「探したんだよ、学校中! 出ておいでよ」
ちなみに、私が今いるところは机の下だ。化学準備室の作業台の下にいる。なのにだ。何故、居場所が分かったのか……。少年の、絆創膏のある日焼けした両手が伸びてくる。
最初のコメントを投稿しよう!