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「冬眠中のクマさんじゃないんだからさあ、そんな暗いところにいないで、出ておいで」
私は顔色を変えずに手早くノートを閉じ、筆記用具と手に持ち、読みかけの本も閉じ、機械的な(ぎこちない)動きで、一目散に、尻尾を巻いて、逃げようとしたのだけれど。
「お嬢さん、お逃げなさい、スタコラ、サッサッサのサ、スタコラ、サッサッサのサ♪」
そうなのだ。こいつはいつもこうなのだ。いきなり、童謡を歌い出し、笑わせてくる。クールな女を演じている私には、脅威的だ。
「と、こ、ろが! クマさんが、後から!」
しかも……歌いながら……手拍子をして、ご存知、『森のクマさん』の民謡の通りに、後から……ついてくる……ではないか……。
私の名前は、森野キサ。お分かりですね。からかい混じりの子供じみた悪戯を仕掛けて愉快そうな悪ガキに、付き纏われています。
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