彼女のガキんちょ 後編

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「僕は寧々ちゃんだけが好きなのに、うわきものって言われるんだ。」 俺はガキの恋愛相談に乗っていた。 ガキは運動会で一位を取ってからさらにモテモテになったらしく、言い寄ってくる子があとを絶たないらしい…… 「僕と結婚しても“ぷりん”が心配だって怒るんだ。どうしたらいい?」 それを言うなら“ふりん”だな。 最近の幼稚園女児は随分マセてやがる。 今日はガキと千夏さんと俺との3人で遊園地に来ていた。 絶叫系が苦手な千夏さんに、自分の代わりに子供と一緒に乗り物に乗ってあげて欲しいと頼まれたからだ。 急流すべりで俺達が乗る丸太風の乗り物が流れてきたので乗り込んだ。 「寧々ちゃんはおまえから好きだって言って欲しいんだよ。ちゃんと気持ち伝えてんのか?」 そう言って前の席に座っているガキの頭を小突いた。 「……クリリンは?」 「あ?」 「クリリンはちゃんとママに気持ち伝えたの?」 ガキから逆に聞かれてしまった。 運動会の日以来、千夏さんとは何度も顔を合わせてはいるが、なかなか気持ちを打ち明けられずにいた。 だって千夏さん、うちの子になる?とか言って俺のこと子供扱いするんだもん。 俺のことを男として認識してくれてないんじゃないだろうか…… ガキがため息混じりにつぶやいた。 「クリリン、本気だから躊躇しちゃうんだろうけど、言わなきゃ伝わらないよ?」 「そ、そうだな……」 なんでそんな難しい言葉を知ってるんだ…… 俺の方が5歳の幼稚園児に諭されてしまった。 川下り気分に浸れる緩やかなコースが終わり、いよいよクライマックス部分へと上り始めた。 周りを見下ろすと、千夏さんが柵の外側で手を振っているのが見えた。 ガキがママ──っと言って大きく手を振り返した。 「せっかく遊園地に来たのに急流すべりもダメだなんて可哀想だな。」 「……ママからはナイショって言われたんだけど、ママ絶叫系平気だよ。」 「えっ…それマジか?」 「うん。グルグル回るジェットコースターも乗ってたもん。」 じゃあなにか? ウソついて俺を遊園地に誘ったってことか? 俺とそうまでして一緒に出掛けたかったってこと? それって───────…… 「おいガキ。ママが他にも俺にナイショにしてることってあるか?」 「あるよー。ママねぇ、本当はクリリンのこと……」 「俺のこと……?」 ガキの方に身を乗り出した時…ちょうどテッペンにきていた。 そのまま落差十数メートルから滑降するもんだから大絶叫してしまった。 お、落ちるかと思った…… 子供を産み育てるのは本当に大変なことだ。 子供は小さくったってちゃんと意思がある。 思い通りにいかなくて当たり前。 成長すれば腹が立つことや生意気なことも言ってくる。 それでも親は、子供が一人でもちゃんと生きていけるように導いてあげなければならない。 でも大変なことだけじゃない。 ウソだろっ?っていうような突拍子もないこともたくさんしでかしてくれる。 ランドセルを忘れて学校に行ったり お友達の靴を履いて帰って来たり 課外授業で他の学校に付いて行って迷子になったり 踏切で線路の窪みに自転車ごと落ちたり…… あっすいません…この4つのエピソードは全部うちの子の実話です。 それもこれも 全部良い思い出となるのです────────
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