恋の行方

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 数日の間、秀柊は屋敷に籠っていたが、屋敷の者達と打ち解けたおかげで、侍女たちと筝を弾いたり、様々な題材で和歌を詠い合ったりすることができたので、ほとんど退屈な思いをせずに済んでいた。恐らく、芳明の取り計らいもあってのことだろう。  また、惟司からの文が毎日届いた。内容は雅矩の事についてである。雅矩の様子は至って普通で、真面目に勤務しており、寄り道もないということだった。 秀柊は明日芳明と山に出掛ける予定だが、問題ないだろうか、という旨を書きつけて文遣いに届けてもらうよう頼んだ。  翌日早朝から屋敷を訪れる者がいた。慌てて着替えて芳明と共に玄関先に行くと、困った顔の惟司と惟司に乗り掛かるように肩を組んでいる倫行の姿があった。 「ちょうど昨日会ってな。何やら物見遊山に出掛けるそうじゃあないか。楽しそうだからこの男も一緒に連れて来たぞ」  そう言って朝から大きな声で豪快に笑う倫行を、芳明は心底面倒臭いと思っているようで、苦虫を噛み潰したような顔になった。 「わ、私は反対したのですが、二人で出掛けては危ないかもしれないから、と倫行様が仰るので断れず――」 「構いません。大勢の方が楽しいでしょう」  そう言って、少し困ったように秀柊は芳明に微笑み掛けた。二人きりで行きたかったのは、芳明も秀柊も同じであったが、張り切る倫行と道連れにされた惟司を邪険にすることもできない。 「分かった。出掛ける準備をするから、待っていてくれ」  芳明は家の者達に申し付け牛車を用意し、秀柊と共に乗り込み、倫行は自分の乗ってきた牛車に惟司を連れていく。倫行の豪快さが些か苦手な様子の惟司だったが、断れるわけもなく仕方なく乗り込んだ。
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