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ピョンはA5和牛カルビをウマそうに頬張る。
僕はあまり肉奉行になるのが好きではないが、なぜかこの日はピョンに焼け過ぎないようなところで肉を小皿に置いてやった。
「おいひー。ウチ焼肉なんて久しぶりー!」ピョンは幾分元気になっていた。
「あーそう、よかったね、ご飯も食べなきゃあかんよ」
「だってお菓子の方が食べたいもん」
「馬鹿じゃん。そんなおカネないの?」
ピョンは部活の遠征にでもいくような赤いスポーツバッグから胡散臭いピンクの長財布をだして、チャックを開けた。ひっくり返すと出てきたのは、銀貨1枚に、十円玉、五円玉・・・。
「お金ない。お金ないからどこにも行けない」
「家に帰れよ」
「オジサン独身?」
「・・・んん。まあね」僕は焦ってロース肉を焼くことにした。
「助けて! 泊めてほしい。お金欲しい」
「親が心配してるよ、失踪手配されてんじゃないんの」僕は肉を並べる。
「ナイナイ。されてないよ。メールしてるし。だけど帰れないから」
「どこにも?」
「うん。友達には迷惑かけたくないし、みんな実家なんだもん」
(実家ってことは1人暮らしの友達がいない? 大学生? 友達の実家の人がピョンの安否や居場所を知らせてしまう、そういう事情か?)僕は逡巡した。
「いくつ? うさぎさん?」焼けたロースを小皿に乗せていく。
「待って、食べるから」
といいながら忙しそうにジョッキのビールを飲み干すピョン。
「オジサンいくつ?」
「どうでもいいんだろ、30,40,50歳そのくらい」
「洗濯機ある?」
「当たり前だろ、つか何歳?」僕は訊いた。
「30,40,50歳そのくらい、キャハハ、ウケル」
「悪いけど家で家出少女連れ込んで監禁なんて、ニュースになってみ、最悪だ、断る」
ピョンは次々に肉とビールをかきこんでいく。
「オジサンも自分のことばっかり? 急に怖くなって本音を隠す。どうせH目的でしょ」
「Hなんて誘ってねえだろ、アナタのこと考えて心配してんの」
「嘘。じゃ、なんであんな店さ来たの? 自分が捕まるのが怖いだけ。ピョーン!」ピョンは箸で肉をピョーンと飛ばせてみせた。下唇が赤みを帯びてきた。
「じゃあ、食事代のほかに小遣いあげるから」
「からなに?」
「どっか他で泊まるか、家へ帰るかっしょ?」
「ひどーい。また知らない人と泊まるのイヤ、怖―い人かも、性的虐待、キャー」
「・・・あのさあ、あなたの方がよっぽど怖―い子なんですけど」僕はハラミを裏返す。
「お願い! オジサン! あたしハタチだし。大丈夫。家に帰ったら殺される! あとビール1杯」
もう3杯目だ。よく飲む子だなあ、僕は酒が好きなヤツは嫌いじゃない。
「ホテルにしよ、1晩だけだぞ」
「ヤダ! 洗濯したいの。オジサンち、行く」
「そういう男の人についていっちゃ駄目。それに怖くねえの? 手錠とかはめられたりしたらどーする? お―怖。第一オジサンち、狭いし、ベッドは1つだし」
「んなわけないよ、オジサンは。いいいい。ハラミがいちばん肉ッて感じだね」
「何がいいんだよ、聞いてんの? ったっく」僕も3杯目のビールを飲み干した。
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