その男、孤高につき

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「何、聞いてんの?!当ったり前でしょ!お客さんとは違うわよ!」 「へへへ、君は歯に衣着せず言える子だねえ、全く呆れるんだけど、君は自分の体を売ってでも金を稼ぎたいのかい?」 「何~、そんなこと急に聞いちゃって・・・あ~、分かった、お客さん、綺麗事言って説教する気なんでしょ、つまりさあ、生活に困ってないんだったら普通の仕事して慎ましく生活しな!みたいなあ~、それとか、貞操観念持ちな!みたいなあ~」 「そう分かっていながら淫らな仕事を進んでするのは、金を稼げば稼ぐ程、幸福になれると、そう思ってるからじゃないのかい?」 「そ~ね、そんな所かな、それが悪いって言いたいわけ~幸福は金では得られないんだぞ~!みたいな~、また、そんな、ど陳腐な綺麗事を言いたいわけ~」 「どちんぽな綺麗事じゃない!」と男は真に迫る真剣な顔で言った。「私は本気でそう言いたいんだ!」 「え~!何マジになっちゃってんの?!マジうざいんですけど~!マジ引くんですけど~!マジ怖いんですけど~!」 「あの、君は知らないだろうけど、嘗て三木清という立派な哲学者がいてね、幸福は徳その物だって言うんだよ。徳というのは君が年がら年中している欲得勘定の得じゃないよ。道徳の徳の事だよ。現に古代中世のモラルの中心が幸福であったのに現代のそれが成功になっちゃったから君みたいな人間が出来ちゃうのであってだねえ、本来から言えば、君みたいに幸福になる為に徳を積まずにギャラが良いからってデリヘルで金を稼ぐというのは本末転倒なんだよ!」 「わあ~!何だか知らないけど身の程知らずにも講釈垂れちゃってる~お客さんがそんなこと言っても説得力ねえし~みたいなあ~アハハハ!」とセイコ嬢は一笑に付した。「あのねえ、折角こんな風に生まれて来たのにこれを利用しない手は無いって思わな~い?どうせ一度の人生だもん、出来るだけ利用できるもんは利用してお金稼いで豪華にパーと遊ばなきゃ~!」 「君の体は商売道具だと言うんだな。君みたいに女としての誇りを捨て尊厳を捨て、そんな不道徳なことで幸福になれると思うのか?」 「幸福?う~ん、なんか、かた~い!ハッピーって感じ!アハハハ!」 「そうか、時に聞くが、君はこの仕事をしていて恥ずかしい思いをしたことがあるかい?」 「あるわよ、そりゃあ・・・」 「それで自分に恥ずかしい思いをさせた客に気持ちよがって見せて愛想よくしたか?」 「そりゃあしたわよ、お客さんだもん」 「そうか、恥ずかしい思いをさせる下劣な者に気持ちよがって見せて愛想よくして金を稼ぐ、よくよく考えてみればサイテーなことじゃないのか!」 「アハハ!さっきからお客さん、何聞いてんの?サイテーどころか気持ちよくなれてお金稼げるんだから、よいちょまるって感じ!アハハ!」 「実に即物的だ。そういう考え方をする奴が腐るほどいるから類は友を呼ぶで君は友達が一杯いるんだな」 「そんなの、当ったり前って感じ~!みんなといるとマジ卍って感じ!アハハ!」 「では、その友達の中に知識人とか文化人とか哲人とか思想家とか芸術家とか道徳家とか隠者はいるか?」 「え~何それ!そんなのみ~んな知らな~いみたいな~」 「だろうな、だから君の友達は皆それら以外の俗物だと思うよ」 「え~!ぞくぶつってなあに~?」 「俗物も知らないのか、それとも惚けてるのか、君のことだよ」 「え~!なんか、やだ~!最&低って感じ!アハハ!」 「確かにやがるのは分かるよ。一言で言えば、おしまいの人間だからな」 「はぁ?おしまいの人間?」 「ああ、ニーチェがいみじくも言ったよ。義に喩り自分の中に確固たる価値観倫理観を創造することなく、利に喩り俗な価値観に囚われた儘、俗物の枠の中からストレイシープのように迷い出ることもなく食み出さないように同調して只々惰性でマンネリに生きる、そんな生き方しか出来ないおしまいの人間に囲まれて生きてるんだから全く君は不幸だ!」 「何言ってんだよ!」とセイコ嬢は遂に切れた。「大人しく聞いてりゃあ、訳の分かんない御託ばっかり並べちゃってさあ、お客さん、マジで親爺臭かったよ、ほんとにうざいんですけど~!そっちが決めつけるなら、こっちも決めつけてやるからね!お客さん、あんた、お金もなければ友達もいない癖に何、イキがって偉そうにほざいてんのよ!この底辺親爺!」
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