金眼の罪

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金眼の罪

 父、ライナス・デペロトがいよいよ軍を退役となるらしい。  最終的には准将にまで上り詰めた父の存在は、息子であるルインにとっても誇りと言って過言ではなかった。筋骨隆々の肉体を持つ父は、現場の叩き上げながらも戦場でいくつもの功績を残し、“破壊の豪腕”とまで言わしめた実力者である。  自分達の惑星“ファラビア・テラ”の人間たちは皆極めて長寿であり、若々しいことで知られている。三百歳を超えた父はさすがに老紳士といった佇まいだが、二百歳と少しのルインは三十路過ぎの容姿と殆ど変わっていない。二十代を過ぎたところで、自分達の外見年齢は老化がかなりゆっくりになる。これは、他の惑星ではかなり珍しいことであるようだ。 「お疲れ様でした、父上」  紅茶を入れながら、テラスでのんびり二人きりで語り合う時間。父がまだ現役だった頃は忙しくてなかなかそうもいかなかったが、これからは二人の時間も多く取ることができるようになるだろう。  まあ、そんなルインの方も現役の少佐であるため、こちらが急に忙しくなってしまう可能性はあるのだが。最近はこの星に喧嘩を売ってくる阿呆もなく、女王陛下のおわす王都・オービタルシティの治安も安定したものではある。が、それでも、油断していいということはない。いつ何が起きても女王陛下と、この町を、惑星を守ること。ルインはそのために、憧れの父と同じ軍人を目指したのである。 「女王陛下から感謝状を頂ける軍人なんて、そう多くはありません。父上の功績が評価された結果です。私も本当に嬉しいですよ」 「ありがとう、ルイン。お前のような後継者がいるから、私も安心して身を引くことができるのだ。これからはお前が、女王陛下とこの星を守っていくのだぞ」 「もちろんです、父上」  金髪碧眼の父と、ルインは非常に容姿が似通っている。大柄で筋骨隆々な体躯も、父の若い頃に瓜二つとよく言われたものだ。  唯一違うものは。ルインのこの瞳の色。  父と違ってルインは、ファラビアの太陽のように苛烈に輝く黄金の瞳を持っている。――この惑星では、滅多に見かけることのない珍しい色だった。 「父の以前の功績を、部下の方や陛下の側近の皆様からよく耳にするのですが。やはり、惑星グランシスでの戦いは必ずといっていいほど話題に上りますね」  この惑星が、一つの国家で統一されたのがおよそ二千年前。そして、この銀河でも類を見ない最強の軍事国家として君臨したのがおおよそ千年前である。惑星そのものにコンピューターを埋め込むことにより、どんどん星そのものを巨大化させ、要塞としていったテラ。唯一の問題は、急激な開発による環境汚染が深刻化していることであろうか。  この惑星広しといえど、安全に住める土地はもはや大地の半分を切っている。幸い、デペロト子爵家は貴族の家系である上、先々代の国王に気に入られて代々仕えることを許された一族だ。その安全な土地の中でも、陛下の宮殿があるオービタルシティの高級住宅地に住むことを許された貴族の中でもエリート中のエリートである。しかし、町を一歩出れば――いや、あるいは地下に潜れば。今日もまた、住むところも寝るところもなく、病さえ配慮できずに体を売る女達と物乞い達が彷徨っているのが実情ではあった。  己が特別豊かな生活を送ることのできている一人であることは、ルイン自身わかっている。それが恵まれていることも。だからこそ――この極端な階級社会を、急激に進む環境破壊を、このままにしていいとも思ってはいない。  王族ではない自分に直接王の座に就く資格はないが、それでも執政官になればこの国を動かす立場になれる。今の執政官も、元は先々代の王直属部隊の兵士であったと訊いている。――ルインの目標は、地道な努力で軍の上層部まで駆け上がり、この国を変える立場になることであった。
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