放課後の図書室にて

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「んー、ちょっと特殊な本っていうか。あ、君はブールフィンチ王国記っていう本、知ってる。ネットではちょっと有名な本なんだけど。」 ブールフィンチ王国記?聞いたことない本だった。 「聞いたことないけど。最近出版された本?」 「ううん、違うよ。いつ出版されたかはわからないんだ。気づいたらそこにあるらしいの。」 葉月の説明に、ますます訳がわからなくなる。一体全体どんな本なのか。 「よくわからないけど、多分ここにはないんじゃないかな。ここの図書って幅広いジャンルの本が置いてあるけど、そんなに新しくはないし。洋書はほとんど置いてないしなぁ。」 「いやいや、わからないよ?どこかの隙間にこっそりと置かれてるかもしれないし。」 「いや、絶対置いてないよ。そもそも、何でその本を探してるの?」 「…聞きたい?」 なぜかもったいぶる葉月。こちらを見てニヤニヤしている。 すると、ヒソヒソ話をするように、片手を口元にあてて、俺の耳元でささやく。 「…異世界に行けるんだよ。」 「……は?」 異世界に行ける?本気で言ってるのか? 「本気で言ってるの?」 「ふふふ、どうだろうね。」 葉月はニコニコしながら作業を続ける。 俺はよくわからなかったので、詳しく話を聞いた。すると、全容はこうだった。 ネット上の都市伝説のようなもので、ある本が噂になっているらしい。それがブールフィンチ王国記。出版も、どんな表紙かも謎だが、必ず学校の図書室にそっと紛れるようだ。誤ってその本を手に取った人は異世界に飛ばされるらしく、誰からの記憶からも消される。そんな話らしい。 こんな馬鹿馬鹿しい話を、葉月は本気で信じてるのだろうか。 「…あまり現実的な話じゃないよね。」 「そうかな?夢があっていいと思わない?」 「葉月は、異世界に行きたいの?」 「ううん、特に行きたいと思わないかな。でも、その本は見てみたいな。だって、誰も知らないものを知ってるって、ちょっと得した気持ちにならない?」 「俺にはよくわからないな。現実的じゃない話は、好きじゃない。」 少し、俺はイライラしている自覚がある。 というのも、この類の話は好きじゃない。非現実的な話は時間の無駄だと思ってるからだ。 「その本を見つけたら、どうするの?」 「んー?そうだねー、こっそり持ち帰って、燃やして見ようかな。」 「本に触ったら異世界に行くんじゃなかったっけ?」 「違うよ。全部読んでしまったら、だよ。」 どっちでもいい。そもそも、そんな本はあるはずがないんだから。 「燃やすって、何で燃やすの?」 「仮に、異世界に行くんじゃなくて、本の中に閉じ込められてるのなら、可哀想じゃない?だったら、燃やしてみたらみんなかえってくるなって。」 「逆に本の中で死んじゃうかもしれないよ?」 「あぁー、その発想はなかったよ、気を付けないとね。」 会話しながら、葉月はニコニコ作業を続ける。 逆に俺はイライラして、作業が荒っぽくなっていく。
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