君は魔法使い。

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君は魔法使い。

「おめでとうございまあす!」  カランカランと派手な鐘の音と笑顔で沸き起こる拍手に、桃園 理津(ももぞの りつ)はぽかんと口をあけた。 「え、え、え?」 「温泉ペア宿泊券おめでとうございます!!」  カランカランカラーン。  のどかな音楽が流れる御手洗町商店街(みたらしちょうしょうてんがい)のアーケードの下で、おそろいの法被をきたオジサンたちに手際よく渡された宿泊券を手に、理津は「まじかー」と笑みを浮かべた。  口元が勝手にニヤニヤする。 「やっべ、温泉だって」  一緒に渡されたパンフレットには緑に囲まれた露天風呂と、豪華な食事の写真が誘うように載っている。  絶対に落とさないようにと肩から下げたバッグの中に大切に押し込むと、駆けだす様に足を早めた。手にしたエコバッグの中のしょうゆや大根の重さなんか気にならない。とにかくこの喜びを早く伝えたかった。  カンカンと高い音を立てながら古ぼけたアパートの階段を上り、まどろっこしい気持ちで鍵を開けると「駿斗(はやと)!」と呼んだ。  狭い三和土にスニーカーを脱ごうとして荷物の重さに引っ張られるようにつんのめる。 「イテっ」  先に廊下についた荷物がゴトっと重たい音を立てた。 「理津? どしたあ?」  奥からひょっこりと真藤 駿斗(しんどう はやと)が顔を出し、ひっくり返った理津を見つけてあははと笑う。 「転んでる」 「笑ってないでいいから」  プウっとふくれて見せたのはちょっと恥ずかしかったのと自分でも笑えると思ったから。
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