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僕はわけもわからず、麗蘭の方に体の向きを変えた。
互いに向かい合い、交差する視線。
立ったまま潤んだ瞳で僕を見つめる麗蘭が、僕の頬を両手で包み込んだ。
「麗蘭?一体何を…」
僕の言葉を遮るように、麗蘭と僕の唇が重なった。
「びっくり、した?」
首を傾げて笑う麗蘭は、確かに僕にキスをした。
「拓真、さん…?」
麗蘭から見た今の僕は、恐らく目を丸くして固まっている。
その証拠に、麗蘭が心配そうな顔で僕の顔を覗き込んできた。
「麗蘭。僕には聞きたいことがたくさんある」
「聞きたいこと?」
首を傾げ、僕からの質問を楽しそうに麗蘭は待っている。
サプライズキスを成功させた当の本人は、上機嫌で僕の肩を揺すっている。
「ねえ、聞きたいことってなあに?早く聞きたい」
そう言って、僕に満面の笑みを向ける麗蘭を見て、僕は更に独占欲に火がついてしまう。
麗蘭、その眩しいばかりの笑顔だけは、佐久間さんには見せるなよー
そう、心で僕は呟いた。
「僕だけにその笑顔を見せろ」
僕の言葉に、麗蘭は笑って深く頷いた。
「さっき、キスしたよな?」
「うん…したよ」
麗蘭の顔が、紅潮していく。
「なんで…」
何故キスをしたのか、ぼくはい知りたかった。嫌ではない。寧ろ、嬉しい。
麗蘭が自分から、ましてや恋人らしい行動をしたことなんて、一度もなかった。
だから僕の頭は今、混乱していて、
この状況を受け入れるのに少し時間がかかるー
と思っていたら、麗蘭にしてやられた。熱のこもった唇が、再び触れ合う。
二度目の、不意打ち。
明らかに主導権を握っているのは、麗蘭だ。
一体、どういう心境の変化だ?
混乱している僕をよそに、麗蘭は満足そうに微笑んだ。
肩に置かれた麗蘭の手を、僕は引き離した。
目の前には、しょんぽりと立ち尽くす麗蘭がいる。
麗蘭が俯いた瞬間―そう、不意を衝くなら、今だ。
椅子から立ち上がった僕は、うつむく麗蘭の両手を引っ張り僕の胸へ引き寄せた。
目を丸くした麗蘭と、視線が交わったところで、静かに麗蘭の手を離す。
「どうして手を離すの?」という麗蘭の声が、聞こえてきそうだ。
僕は再び、手を伸ばす。伏し目がちの麗蘭の頬を両手で包むと、はっとしたように麗蘭は僕を見た。目が合った瞬間、僕は麗蘭の唇を貪る。
しばらく見つめあったままでいたが、麗蘭が僕の腕を掴んだのを合図に
、僕は静かに麗蘭から唇を離した。
「拓真さん…」
麗蘭が腰が抜けて床に座り込みそうになったのを、
僕はしっかりと抱きとめた。
「もう…拓真さんが不意打ちするから、腰抜けちゃった」
「先に不意打ちしたのは、麗蘭だろ?」
「だって…」
麗蘭は恥ずかしそうに、僕から目を逸らした。
「拓真さんの不安を消すには…」
その時、僕はやっと気付いた。麗蘭が、僕を気遣っていたということに。
「ごめんな。気を遣わせて」
「ううん、いいの」
麗蘭はにっこりと、僕に笑いかけた。
「拓真さんから、キスしてくださったんですもの。それだけでわたし、幸せ」
靄のかかっていた世界に、光が差したように感じた。
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