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何故こんなことになってしまったのだろう。
僕は、麗蘭の手を離してしまった。
あろうことか、麗蘭を追い出すように半ば強引にー
僕は、手を繋いで歩いていく和哉と麗蘭を見送った。
嫌だという麗蘭を、レストランから追い出すように。
麗蘭は何度も振り返り、レストランの前で立ち尽くす僕を見て涙を溜めていた。
だんだんと小さくなっていく二人の背中を、僕はレストランの前で呆然と見つめていた。
僕はレストランに戻って、厨房に駆け込む。
定休日のレストランには、僕しかいない。
「何やってんだよ、僕は」
些細なことで麗蘭は喧嘩してしまった僕は、いまだに仲直りができずにいた。
そんな時、レストランを訪れた和哉が「麗蘭と二人きりで美術館に行きたい」と言い出した。和哉の申し出を僕は断った。しかし、和哉に痛いところを突かれてしまったのだ。
「喧嘩してるんだって?」
「関係ないだろ?」
「あるよ。麗蘭に相談されたし」
「は?相談された?」
初耳だった。麗蘭がいつ和哉に会ったのか考えを巡らせても、答えは出なかった。
「早く仲直りしないと、俺が麗蘭を奪うぞ」
「その言葉、今すぐ撤回しろ」
和哉を強く睨みつけても、僕の睨みに和哉は怯まない。
「泣いてたぞ。仲直りしたいけどできない、って。どうしたらいいか悩んでる、って」
「すぐに…仲直りはする」
「麗蘭が俺の絵のことを楽しそうに話すから、嫉妬して喧嘩した。…合ってるよな?」
麗蘭があまりにも和哉の絵を褒めちぎるので、
僕は苛立ちと嫉妬で麗蘭に冷たい言葉を言ってしまった。そして、未だに素直になれない。
和哉との思い出を懐かしむように話されるだけでも、心が乱れるというのに。
そのうえ、僕のレストランに和哉の絵を飾ればいいのではないかとまで言われて、僕の怒りは噴出してしまった。
「そんなに和哉の絵が好きなら、和哉といればいいだろ?」
麗蘭は、明らかに傷ついた顔をしていた。
「もういい…!拓真さんなんか大嫌い…!」
思わず出てしまった言葉なのか、それとも本心なのか。僕には、わからない。
麗蘭は目に涙を浮かべて去っていった。
麗蘭の言葉がぐさりと心に刺さったのは、言うまでもない。
「絵、描いてやるよ。特別な」
和哉の言葉で、僕は現実へ戻った。
「いらねえよ」
「明日、麗蘭を借りるぞ」
そして、今日。今から二時間も前のこと、和哉は麗蘭を連れて美術館へと行ってしまった。
僕は、麗蘭に嘘をついた。一緒に美術館に行こうと言って。
麗蘭を誘い出しておいて、僕は麗蘭を和哉に預けてしまった。
一番、してはいけないことだったのに。
こんなことをしたら、絶対に和哉との恋の火種が再燃してしまう。
それなのに僕は、それなのに、僕はー
だまし討ちのようなことをしてしまった。
麗蘭は、こんな僕のことを好きでいてくれるだろうか。
それとも、嫌いになってしまっただろうか。
和哉と結ばれた方が、麗蘭の幸せのためにもいいのではないかと思い始めていた時、
僕の携帯電話が鳴った。電話の相手は、和哉だった。
「惚気なら、聞かないぞ」
「今すぐ来い」
和哉の声に苛立ちがこもっているのが、僕にはすぐにわかった。
「何だよ、急に」
「いいから、今すぐ来い!拓真がいないと、麗蘭は歩きもしない。
泣いてばかりで話にならない」
和哉はそれだけ言って、電話をぷつりと切ってしまった。
僕はジャケットを羽織り、急いでレストランを飛び出した。
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