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外へ飛び出した麗蘭は、絶対に会いたくない人物に会ってしまった。
「麗蘭?」
麗蘭は、身を固くした。目の前にいたのは麗蘭の父親、播磨だった。
「お前、また逃げ出してきたのか?」
「……」
麗蘭の頬には一筋の涙が光っていた。
「お前なあ…!!」
播磨は逆上し、路地へと連れ込んで怯える麗蘭の頬を殴った挙句、
麗蘭の体を殴り何度も蹴った。
麗蘭はなんの抵抗もできず、ただただ播磨の暴行が止むまで待っていた。
「お前は俺の借金のかたなんだからな!?その身分を忘れるなよ?
早く若に襲われて妊娠でもしろ!
そしてその子供も、お前と同じように俺の借金のかたとして死ぬまで働かせてやる。
たくさん若の子供を産めよ?わかったな!」
麗蘭は、静かに目を閉じた。
麗蘭がふらふらと夜道を歩いていると、二人の影が麗蘭の前に立ち塞がった。
麗蘭が顔を上げると、そこには大知と健がいた。
「姐御!どうしたんすか!?」
「こんなに傷だらけに…」
大知と健は、飛び出していった麗蘭を探して走り回った。
拓真に気付かれないうちに、と夜の街を必死で探していたのだ。
大知と健は、拓真のいないレストランの裏口から入っていった。
「とにかく、傷の手当しましょうか。何があったかは後で」
健がそう言うと、背後で低い声が響いた。
「傷の手当とはなんだ」
大知と健は驚いて振り返った。
すると、腕組みをして大知と健を睨みつける拓真がいた。
「あっ、わ、若。か、帰ってたんですか?」
大知は慌てた。
「どこへ行っていた?留守番を放棄して」
「す、すみません、若」
健も平謝りを繰り返していた。
「どこへ行っていたかと聞いている」
拓真が強く大知と健の胸ぐらを掴んだ。
「ん…?」
拓真は、大知と健の後ろに麗蘭がいることに気付いた。
「麗蘭…?」
麗蘭のもとへ行こうとする拓真を阻止しようと、大知と健は麗蘭を背に庇った。
「どけ」
そう言って麗蘭のもとへ向かった拓真は、驚いて麗蘭の肩を掴んだ。
「麗蘭…どうしたんだ、その恰好は」
拓真の目は大きく見開かれていた。
「なんでも…」
拓真は震える声の麗蘭の手を引っ張り、部屋へと連れて行った。
「何があったか教えろ」
麗蘭の怯える様子を見て、拓真は優しく言った。
「お父さんに会いました」
「播磨さんに?」
麗蘭は黙って頷いた。
「何を言われた」
「大したことありません。拓真さんから逃げようと思うなって」
「大したことないわけないだろ。現にこうやって傷だらけなのは、播磨さんのせいだろ」
拓真は、麗蘭の腫れた左頬にそっと触れた。麗蘭が痛みで顔を歪めた。
拓真は黙って麗蘭の傷の手当てをした。
麗蘭の左手には刃物で傷つけられたような傷あとがくっきりと残っており、
右足にも深い傷は残っていた。
「どうしてこうなった」
「聞いたんです。拓真さんの昔のこと」
「敬語は使うな。さん付けはやめろ」
「いいでしょう、そんなこと」
「これは命令だ。止めろと言っている」
「…わたしは、大知さんと健さんに聞いたの。拓真の昔のことを知りたいって」
拓真は黙って麗蘭の傷の残る左手を優しく握っていた。
「そしたら、拓真には素敵な、蘭子さんっていう婚約者がいたって」
「…あいつら、蘭ちゃんのこと話したのか」
余計なことを、と拓真はぼそっと呟いた。
「その人はもうこの世にはいない」
「もう昔の話だろ。僕が大好きなのは、麗蘭なんだ。信じられないか?」
「蘭子さんとわたしがすごく似てるって」
「いや、まあ、それは…」
「似てるから、好きになったって」
「違う、そんなんじゃない」
拓真は麗蘭の手を自分の膝の上に置いた。
「確かに、蘭ちゃんと麗蘭は似ている。でも違うんだよ、麗蘭と蘭ちゃんは」
「どこが違うの」
拓真は、すぐには答えられなかった。
やっぱり拓真は蘭子さんがまだ好きで、拓真の心には蘭子さんが住んでいる。
麗蘭はとても悲しい気持ちになった。
「手当てして下さって、ありがとうございました。失礼します…!」
麗蘭は、拓真のレストランから走って逃げた。
手当てしてもらった右足の傷がずきんと痛む。
けれどそんなことは気にせずに麗蘭は、ただただ走っていた。
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