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僕は彼女と、展示スペースへと足を踏み入れた。
そこにあったのは、蝶の標本―ではなく、
大きな額縁に収められた大小さまざまな蝶の絵画だった。
「わあ…!すごい…!」
彼女は目を輝かせながら、食い入るように絵画を見つめていた。
さっきまであんなに不機嫌だったのに、
今はこんなにきらきらした目で絵画を見つめている彼女は、
見ていて飽きない。
―要するに、無邪気。
そこがまた、好きなんだ。彼女の無邪気なところが、好きだ。
そんな彼女に、いつも僕は振り回されている気がする。
けれど、それもまた良し。
「すごい…どうなってるんだろう」
彼女は絵画に近付けるまで近づいて、いろんな角度から絵画を見ていた。
「随分、熱心に見てるね」
僕は関心したように言った。
「そんなことないよ?普通」
普通はこんなに見ないと思うけどな。
すごいなとは思っても、ただそう思うだけで、
普通はすぐに通り過ぎてしまう。
しかし彼女は違う。
彼女は、蝶の絵画に釘付けになっていた。
蝶を含め彼女は虫が大嫌いなのに、蝶の絵画をじっくり眺める彼女。
彼女をこれほどまでに魅了するこの画家の力は、やはりすごい。
「芸術とか、美術に興味あるの?」
これほど見入っているということは、
きっと芸術や美術に興味があるに違いない。
「ううん、ないよ」
「えっ、ないの?」
「うん」
彼女は頷いた。
「あっ、詳しくもないよ」
彼女は付け加えるようにして言った。
そうなのか。熱心に見入っているから、
てっきり興味があるものとばかり思っていた。
それにしては、熱の入りようが違う。
「いや、すごく熱心に見てるからさ。興味があるのかと思って」
僕も、芸術や美術に関しては無知で、興味はないに等しい。
「興味もないし詳しくもないけど、すごく綺麗なものを見るのが好きなの。
それにね、いろんなものを見たり聞いたり、いろんなところに言ったりすることが、大切だと思うの。いろんなことも学べるし、
知らなかったことも発見できて、楽しいでしょ?」
ふふ、と彼女は笑った。
確かに、その通りだと思った。
ただー彼女のこの笑顔を見れるなら、何度美術館へ行ったっていい。
僕の興味の有無は関係ない。彼女の喜ぶ顔が見れれば、それで十分だ。
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