第1章 夢のノロッコ号

12/26
前へ
/139ページ
次へ
[ずっと行きたいと思っていた美術館の中へ最愛の彼と入る。 展示スペースへ向かうと、まず目に飛び込んできたのは、大きな額縁だった。 その額縁の中には大きな蝶が描かれていた。 まるで生きているかのような躍動力、生命力を肌で感じた。鳥肌が立った。 額縁を外せば今にも飛び出してきそうな蝶の生命力。 目の前にあるのは紛れもなく蝶の絵画。 しかし、標本かと見紛うほどに息を呑む素晴らしい作品だった。 蝶の絵画は大きいものから小さいものまで様々で、 蝶の模様も繊細かつ鮮やかな色使いに一瞬にして目を奪われた。 本物の蝶にしか見えないその表現力は、彼にしか出せないものだと思った。 あの鮮やかな色合いをどのように出しているのかと、 思わず考え込んでしまった。] 「…終わった?」 「うん、終わったよ。ごめんね、長々と」 「…もしかして、考えてた?」 「え?今考えて言っただけだよ。どうかしたの?」 「いや、前から見てたようなそぶりで言うからさ…驚いた。本当に、今考えて言ったのか?」 「うん、そうだよ。そんなに信じられない?」 彼女はふふ、と笑った。 「…すごいな」 僕は、心底感激した。 ほんの数分見ただけで、 こんなにも素晴らしい描写をあっという間に作り上げることが、 果たしてできるだろうか。すごい、の一言しか出てこない。 やっぱり彼女には、センスがある。 「それに、最愛の彼と、ってとこがいいな」 「ふふ、もうひろくんったら」 彼女は照れながら、僕の手を引っ張った。
/139ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加