第1章 夢のノロッコ号

14/26
前へ
/139ページ
次へ
「暖色系の明るい色だね、オレンジと黄色って」 彼女が、絵を見て目を細めながら言った。 「うん、そうだね」 「見てるだけで和むっていうか…和む、とは ちょっと意味が違ってくるかもしれないけど。 うーん、なんていうのかな…。 暖色系の色を見ていると心がぽかぽかする、じゃないけど、 なんかこう、暖まる感じ、ない?」 「あるある。オレンジもそうだけど、 黄色は特に明るくて眩しい色だよね。太陽の色、みたいな」 僕の太陽を縁取る暖かで眩しい色―黄色だ。 そしてその眩しい黄色の柔らかなオーラを放つのは、 まさしく君だ、心愛ちゃん。 「そうそう、まさしく太陽の色! なんかね、黄色とかオレンジって、希望の色みたいじゃない? 希望の光みたいなイメージカラーというか」 そうだよ。まさしく、君は希望の光のイメージカラーを纏った、 僕の太陽なんだよ。 君は僕の、希望。 「うんうん。希望の光って、黄色ってイメージだよね。 逆に黄色意外、希望の光には当てはまらないって感じ」 「どうやったらこんな暖かみのある色を出せるんだろう」 「確かに」 「ねえ、さっきからひろくん、確かに、ばっかり言ってる」 「えっ、そうかな?」 「うん、そればっかり」 彼女は笑っていた。 「黄色とオレンジだけで描いてるんだよね。きっと、これ」 彼女がドット柄を見て言った。 「そうかもな。わかんないけど」 「もしかしたら、他の色も混ぜてるかも」 「えっ、そうなの?」 僕が彼女を見ると、彼女は考え込んでいた。 「そうなの?って、わかんないよ。美術に詳しくないし」 「なんだ」 「なんだ、ってなに?ひどーい!」 彼女は頬を膨らませた。 「ごめんごめん。でも、黄色とオレンジだけで これだけの絵を描いているとしたら、すごいよな」 「うん、すごい」 僕は彼女と、暖色のドット柄を見上げた。 画家の名前は知らないものだった。 素人ながら失礼なことを言うが、恐らく無名の画家だろう。 「やっぱりすごいなあ」 「すごいって?」 「芸術家って、こんなにすごい、人を惹きつけるかのような 何かを創れるって、すごいなって」 「僕もそう思うよ。芸術家って別世界に住んでる人、って 感じがするんだよね。特別感が漂ってる、みたいな」 「うん、何故か惹きつけられちゃう」 「あっ、心愛ちゃん!こっちにもあるよ、ドット柄」 「え…?あ!本当だ」 今見た暖色のドット柄とは打って変わって、 今度は青と緑が基調となっている。 「こっちは、寒色系!」 「そうだね。青と緑の中間色、かな?」 「うん、そうかも…!」 「寒色系って、冷たいというか寒い感じのイメージだよね」 「ふふ」 「なんだよ、急に笑いだして」 「だって…そのままなんだもん」 「そのまま?」 「うん。寒色系って、冷たくて寒いイメージだね、って」 「だって、その通りだろ?」 僕は彼女に言った。 「うん、その通り」 彼女は笑いながら、寒色系のドット柄を見た。 「暖色系のドット柄もそうだけど」 彼女が、静かに語りだした。 「何故か、見た瞬間引き込まれていく感じがするんだよね。 すーっと、引き込まれていくこの感じ。不思議だなあ~」 「うん、わかる気がする」 僕は頷いた。 美術や芸術に全く関心のない僕でさえも、目の前のドット柄を見ただけで、 彼女の言う『引き込まれる何か』を感じていた。 その正体というのものは何なのかはわからないが。 「表現力がすごいと思うの。 普通の人には表現しきれない『何か』が溢れてる。 他の人には出せないものを創り出せるということは、本当にすごいと思う。 芸術家は特に、表現力に長けている人が多いと思う」 「そうだね。『創造力』があるんだよね、きっと。 創りたいものを創るって、案外難しいと思うんだよ。 創っていくうちにどこかが少しずつずれていって、 出来上がったときには思い描いていたものじゃなくなってたり、 考えが変化して全く別の物が出来上がってたり。 思い描いていたものを実際形にしてみると、 何かが違う、って思うことも少なからずあると思うんだよな」 「自分の納得のいくものができるまで悩み続けて、 試行錯誤を繰り返していくんだろうなと思うの。とても大変な作業…」 「でも、その作業を繰り返し行っていくから素晴らしい作品が できるんじゃないかな」 「そうだよねえ。すごい忍耐力…」 「だね。面倒くさがり屋にはまず、無理だね。 もちろん、雑な人も耐えられない」 「大雑把な人もね」 僕と彼女は、顔を見合わせて笑った。
/139ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加