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ドット柄の絵を背にして奥の方へ進んでいくと、少し大きめの部屋があった。
中には何があるのだろうという興味から、
僕と彼女は部屋の中へと入っていった。
―入っていった、までは良かったのだが、問題はその後だ。
振り向くと、そこには僕以外、誰もいなかった。
「あれ?心愛ちゃん?」
辺りを見回すも、彼女の姿はどこにもなかった。
「心愛ちゃーん?」
僕が彼女の名を呼ぶと、細く透き通った綺麗な声が、僕の耳に届いた。
「ひろくーん」
彼女が、部屋の入り口の壁からひょっこりと顔を出した。
「こーら、いきなりいなくならない。びっくりするじゃないか」
全く。目を離すといつもこうなるから、本当に目が離せないんだよな。
目が離せないというのも、困ったものだ。
かくれんぼしてるわけじゃないんだぞ。
「ごめん…」
そういいながらも、彼女はなかなか壁から離れようとしない。
「そんなところにいないで、こっちにおいで」
僕は彼女を手招きして呼んだが、一向に壁から離れる気配はない。
「どうしたんだよ?おいで、ほら」
僕はゆっくりと彼女の方へ近づく。
彼女は部屋の様子を伺いながら、恐る恐る部屋の中へと足を踏み入れた。
そして僕の方へまっしぐら。僕の胸に勢いよく飛び込んだ。
「おおっと、」
僕は驚きながらも、彼女をしっかりと抱きとめた。
「ひろくん~」
彼女は僕の目をじっと見ている。
「どうしたんだよ」
「なんとなく…」
「なんとなく?」
「ちょっと、怖くって…何があるのかなあって…」
「怖い?怖くなんかないよ」
一体、何が怖いんだ?
しかも、なんとなく、って。
僕は部屋全体をを見渡したが、
これといって怖がるような仕掛けも何もなかった。
あったものといえば、針金でできた創造物だけ。
人気が全くないから怖いのだろうか。
そこのところが僕にはよくわからない。
「ほら。心愛ちゃん、見て」
僕が指差したものを彼女は目で追った。
僕の胸にしがみついたままの彼女だったが、
針金でできた創造物を見た瞬間、彼女の目がきらりと光った。
「えっ、なにこれ…!」
先ほどまで、なんとなく中へ入るのが怖いと小さな恐怖に怯えていたのに、
そんなことはけろりと忘れて針金の創造物を近くで観察している彼女を見て、
僕は思わず笑みがこぼれた。
そんな僕に気付かずに、針金を見つめている彼女。
「心愛ちゃん」
僕がそう声をかけると彼女はぱっと顔を上げ、目を輝かせながら僕を見た。
「ねえ、ひろくん、見て!」
「うん」
―うん、見ているよ。さっきからずっと。
君が壁にしがみついている時から、ずっとね。
「すごくない?これ」
「うん、すごいね」
「これ、ぜんぶ、針金!」
うん、見ればわかるよ。
どこからどう見ても、針金だよね。
「こんなに大きいものを針金だけで作ってるなんて、信じられない!」
この部屋の中央には、針金でできた大きく丸い創造物があった。
彼女は今、まさにその創造物に心底感激している。
「すごい…。針金だけでここまでのものが作れるなんて…」
芸術家って、本当に天才だよね、と彼女は笑った。
「何でも創れちゃうんだもんね、芸術家って」
「確かに。天才肌って言葉が似合うよな」
彼女は創造物を見ながら頷いた。
部屋は白色で、中へ入ってみると意外に広く、
黄色い照明が創造物の後ろにある壁を照らしていた。
「心愛ちゃんなら、この創造物になんて名前を付ける?」
「うーん、」
どんな名前を付けるのだろう。
ネーミングセンスの良い彼女のことだから、
きっと洒落た名前を付けるに違いない。
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