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ノロッコ号が、動き出した。
ゆっくりと、しかし確実に、前へ進んでいる。
進め、前へー夢のノロッコ号。
「うーん…」
彼女は、さっきから悩ましげな顔をしている。
「どうしたの、心愛ちゃん」
僕は彼女に尋ねた。
「夢を叶えるって難しいと思って」
彼女は、深い溜息をついた。
―どうして今更、そんなことを…。
「簡単には叶わないから、夢っていうんじゃないの?」
「確かに、そうかも」
彼女は納得したように頷いた。
「博人さんって時折、名言…言いますよね。素敵な、名言」
彼女はふふ、と笑った。
「そうかな?」
「はい」
「…褒めても」
「何も出ない、でしょ。わかってます!」
彼女は頬を膨らませた。
「ごめんごめん」
僕は笑った。
「夢を叶えた人ってすごいなって思って。
並大抵の努力じゃないってことはわかるんですけど…。
夢を叶える秘訣って、ないんでしょうか?」
「うーん…。ありそうな気もするけど、わからないな。
夢に近道はないんじゃないか?」
「そうですよね。地道な努力が大切ですよね」
「自分を信じること。それから自分の夢を信じることが大切だと思うよ」
「うん、そうですよね。」
「地道な努力は夢への一歩。努力の継続は夢へと続く道。」
僕がそう呟くと、彼女は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔になった。
「博人さん、すごい!」
「えっ、なんだよ、急に」
僕は目を丸くした。
「だって、今の言葉、作家さんみたい」
ふふ、と彼女は笑った。
「え?そうかな?」
僕は首を傾げた。
「はい。作家目指しちゃいます?」
「ん?目指しちゃおっかな~」
僕は冗談交じりに言った。
「え、本当ですか?一緒に作家になれたら最高だなあ…」
冗談で言ったつもりが、彼女は本気にしてしまったようだ。
彼女は、すぐに人を信用してしまう癖がなかなか直らない。
そんな彼女の真っ直ぐなところは好きだけれど、
騙されないか心配でしょうがない。
ちゃんと、訂正しておかないと。
「僕は作家になる気はないよ。今のは、冗談」
「ん~、残念。でも、…そう言うとは思ってました。
だって博人さん、今の仕事すごく楽しそうだから…」
彼女が言った。
「今の仕事は楽しいよ。大変でもあるけど、やりがいはある。」
僕は続けて言った。
「それに、僕は文章を書くのはそこまで得意じゃないし、センスないし」
「センスはあります~!」
彼女は口を尖らせて言った。
「ないない」
「あります~!」
「はいはい」
「も~!適当にあしらわないでください!」
彼女は再び頬を膨らませた。
「ごめん」僕は彼女の頭を撫でた。
「博人さん、文章書くの得意そう」
「得意じゃない。普通」
「うーん、そうですか?そんな風には見えませんけど…」
「そうなんだよ」
「うーん」
彼女はなかなか引き下がらない。
「心愛ちゃんの方がよっぽどセンスあるし、文章書くの得意じゃないか」
「ふふ、ありがとうございます~!」
彼女は満足げに笑った。
「でも、それを見抜いてくれたのは博人さんですよ。
博人さんが見つけてくださらなかったら、
私、自分の強みに気付きませんでした。ありがとうございます」
彼女はぺこりと頭を下げた。
「そんなお礼を言われるようなことじゃないよ。僕はただ、思ったことを言っただけ。
文章がすごく綺麗で繊細で、まるで映画を見ているかのように情景が思い浮かぶ文章を書ける人はそうそういないよ。
だから、心愛ちゃんにはセンスがある。心愛ちゃんならなれるよ、作家に」
僕は自信たっぷりに言った。
本当に、心からそう思っているから。
この素晴らしい能力を活かさない手はない。
宝の持ち腐れにしておくなんて、勿体ない。
彼女の才能が開花したのは紛れもなく彼女の努力の結果だが、
どうもそれだけではないようだ。
才能が花開いた背景には、『彼』の存在があった。
彼女が憧れる、『彼』の存在―『彼』の存在が、
彼女を夢のノロッコ号へ導いたとしか思えない。
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