第1章 夢のノロッコ号

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「それなら、僕のどこが好きなんだ?」 僕は冷静さを失い、彼女に迫っていた。 僕は彼女を壁に押し付け、彼女の両肩をがっしりと掴んだ。 「ひ、ひろくん…」 彼女は驚いて僕の腕を掴んだ。 「ひろくん、やだ…こんなこと…」 「別にいいだろ、二人きりなんだし」 僕はぶっきらぼうに言った。 「そうですね…二人きりなんですもの、 恥ずかしがることなんて、ないんですよね…」 彼女は恥ずかしそうに目を伏せた。 「でも…恥ずかしい」 「恥ずかしくなんかない」 「それでも、恥ずかしい」 彼女は照れている。 今、どんな状況かわかっているのか? 全く。僕をどれだけー 「私ね、ひろくんの…あ、」 「ん?なんだよ。途中で止めないでくれよ」 「ご、ごめんなさい…私、ため口で話してましたよね…」 「ん?ああ、」 「気を付けます…」 「そういうの、いいから」 「えっ?」 「だから…敬語。半年も付き合ってるんだから、 『さん付け』もなし。いいね?」 「でも…」 彼女は躊躇った。 「別にいいよ?嫌なら」 「んんっ…」 彼女が困った顔をする。それがまた、とてつもなく可愛い。 「わかった。ひろくん、あのね」 彼女が一歩を踏み出した瞬間だった。 「ん?何?」 「もう、何笑ってるの?」 僕は嬉しさのあまり、にやけていた、らしい。 「やだ、変なこと考えないで」 「考えてないよ。心外だな」 「ごめんなさ…ごめん」 「はは。慣れない?」 「うん。だってずっと敬語で話してたし…敬語がついつい出ちゃう」 「少しずつでいいよ」 彼女は頷いた。 「あ、そういえばさっき、何か言いかけてなかった?」 「あ、そうそう!私が、ひろくんのどこが好きか、話そうと思って…」 彼女は照れくさそうに言った。 「へぇ~」 「もう!なあに、その言い方。それに、そんなヤラしい目で見ないで!」 「酷いなあ。そんな目で見てないよ、僕は。 ただ、心愛ちゃんの口からそんな言葉が出てくるとは思ってなくてさ。 嬉しいよ」 「本当?」 彼女は、疑いの目で僕を見ている。 「本当だよ」 「ほんとにほんと?」 「ほんとにほんと」 「ほんとにほんとにほんと?」 「うん、ほんとにほんとにほんと」 「ほんとに、ほんとにほんとにほんと?」 こんなことをしていたら、きりがない。 彼女は、疑い深いところがある。 「ほんとに、ほんとにほんとにほんと」 「よかった…」 彼女は安堵した。 「あのね、私、ひろくんの優しいところが大好きなの」 「優しいところ?」 「うん」 彼女はこくりと頷いた。 「あとは?」 「えっ?」 「あとはないの?」 「あとは…」 ―ないのか。僕の優しいところだけか。 僕は、僕は心愛ちゃんの大好きなところ、たくさん挙げられるのに。 彼女は、僕のことをそんなに好きではないのかもしれない。 実際、先に好きになったのは僕の方だし…。 こんなに好きなのは僕だけでー 「ひろくんは、とても頭が良くてかっこいい」 「そんなこと…ないよ」 嬉しかった。すごく嬉しかった。 彼女にかっこいいと言われて、僕は舞い上がった。 「もう…またにやけてる」 「いいだろ?…にやけて何が悪い?」 僕は彼女の頬を撫でた。 「んっ…もう…」 彼女は照れていた。 「ひろくん、とても頭が良くていろいろなことを知ってて、 すごいなあって思うの」 「そうかな?」 「うん」 「あとは?」 「あとは…」 いちいち言葉に詰まる彼女。 「うーんとね」 すぐに言えないのか?と言いたくなったが、我慢した。 彼女の悲しい顔は、見たくない。 「ごめん…すぐに言えなくて」 彼女は俯いた。 恐らく、いらいらが顔に出ていたのだろう。 そんなことを言わせてしまった僕は、本当に愚かだ。 「ひろくんが素敵すぎて…好きなところがたくさんあって、 すぐに言葉にできなくて…ごめん」 彼女は、申し訳なさそうに言った。 「こっちこそ…ごめん」 僕は彼女を抱き締めた。 「ううん、いいの。すぐに言えない私が悪いの」 「心愛ちゃんは何も悪くない。悪いのは、待ちきれなかった僕だ」 「いいえ、私が悪いの」 「いや、僕だ」 「いいえ、私が」 僕はぷっ、と笑った。 彼女は目を丸くしていたが、すぐに笑い出した。 「ふふふ」 「僕たち、また譲り合いしてるね」 「そうだね。ふふっ」 「心愛ちゃんは、ゆっくりでいいんだ。心愛ちゃんのペースで、 ゆっくりでいいから聞かせて。心愛ちゃんの、僕の好きなところ」 「うん、ありがとう、ひろくん」 彼女は一呼吸置いてから、語り始めた。
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