第1章 夢のノロッコ号

6/26
前へ
/139ページ
次へ
「…もう、諦めようかな」 彼女がぽつりと呟いた。 「どうしたんだよ、急に」 僕は俯く彼女を見つめた。 「うん、なんか…私には無理な気がして」 彼女は弱気になっている。 「気を強く持たなきゃ、だめだよ」 「私に、叶えられるのかな…」 彼女は、深く溜息をついた。 ―どうしたんだ。あんなに楽しそうに夢を語っていたのに。 どうしても叶えたい夢がある、って目を輝かせながら話していたのに。 あの輝きは、既に消え失せていた。 彼女の目は、輝きを失いつつある。 「心愛ちゃん、だめだよ。そんな簡単に諦めちゃ」 「うん…」 彼女は力なく頷いた。 「どうしても叶えたいって、諦めきれない夢だって、言ってたじゃないか」 「それはそうなんだけど…」 「諦める必要はない。叶えたいんだろ?」 「うん、そうだけど…」 「けど、はなし。自分と自分の夢を信じて、前進あるのみ!」 「うん…」 彼女は最近、元気がない。 どうしたのだろう。一体、何があったんだ。 ノロッコ号が急停止した。それも、不具合ではなく謎の、急停止。 突然、一歩も動かなくなったノロッコ号。 ―停滞。 「どうしたの?何かあった?」 彼女は首を横に振った。 「そう…?どんな小さいことでもいいから、何かあったらすぐ言うんだよ?」 「うん…ありがとう」 彼女の声に、元気がない。心配だ。 最近彼女とデートしても、なかなか彼女は笑顔を見せてくれず、 僕は悶々としている。 どうしたら彼女は笑ってくれるのだろう。 どうしたら、彼女の心にかかる霧を、晴らすことができるだろう。 どうしたらー。 僕の頭の中に、一つの考えが浮かんだ。 よし、これだ!これならきっとー 「よし!」 いきなり僕がそう言うので、彼女は驚いた。 「どうしたの、ひろくん」 「行こう」 「行く?行くってどこに?」 「着いてからのお楽しみ」 「えっ…?そんな…教えてよ」 「だーめ。その方が、わくわくするだろ?道中」 「それはそうだけど…ヒントちょうだい」 「…仕方ないなあ。美術館」 「美術館に行けるの…?わあ、嬉しい!どこの美術館?」 「秘密」 「え~、教えてよ」 「だーめ。はいはい、行くよ」 僕は彼女の手を握り、彼女の家をあとにした。
/139ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加