第3章 奇妙な共同生活

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「ふふっ、博人は私の美貌には勝てないみたいよ?どう、心愛」 楊香は自信満々に彼女に言った。 「うん、そうね」 「へ?」 彼女がすんなり受け入れたので、楊香は驚いて目をぱちくりさせていた。 「なによ、今日はやけに素直じゃない。なんか不気味」 「いつも、こんなんだけど」 「それにしても、元気ないよ心愛ちゃん」 魁利は心配そうに彼女を見た。 僕と楊香が口付けをしているところを見てしまったから、 きっとショックは大きいのだろう。 楊香の我儘に付き合っていただけなのに、何故か罪悪感が付きまとう。 額にすれば良かったかな、こんな気まずくなるなら…。 彼女は深く溜息をついてから、ゆっくりと立ち上がった。 「心愛ちゃん、どこ行くの?」 僕は彼女のすぐ後ろに立った。 「もう、帰るね」 「えっ?だってまだ…」 「まだ、寝足りないし眠いから。ごめん、ひろくん」 「…それなら、僕の家で寝ればいいよ」 「ううん、大丈夫。自分の家の方がリラックスできるし…」 「でも」 「ごめんなさい」 眉を下げて困ったように言う彼女は、僕と距離を取りたいように見えた。 こうと決めたらなかなか答えを覆さない彼女。 彼女が納得するまで、一人にさせてあげよう。 「わかった。でも、たまにでいいから連絡して。心配だから」 「うん、ありがとう」 歩き出すかと思いきや、何かを思い出したように彼女は僕を振り返った。 「魁利と楊香は、ひろくんと遊んでていいよ。じゃあ、」 そう言って彼女は去っていった。 ゆっくりと小さくなっていく彼女の背中。 もっと一緒にいたかったという思いが僕の胸を苦しめる。 病魔にやきもちを妬いているのだろうかと思ったりもしたが、 実際のところよくわからない。 僕は魁利と楊香と三人で再び緑の野原へやってきた。 風が吹き抜ける。 心地よい風。 でも、ここには大好きな心愛ちゃんはいない。 彼女の姿は、どこにも見当たらない。 彼女の切なげな瞳と寂しそうな背中を思い返すと、胸がすごく苦しくなる。 これは何かが起こる前触れだろうか。 そうならないようにと願わずにはいられなかった。
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