第1章 夢のノロッコ号

8/26
前へ
/139ページ
次へ
僕と彼女は、真新しい建物の前で立ち止まり、空を仰いだ。 「すごい、綺麗」彼女は目を瞬かせた。 「本当だ…すごいね」僕も驚いた。 僕は彼女の手を引き、中へと入った。 中へ入り受付に向かおうとした。が、何か寂しい。 何だ、この違和感は。手から温もりが消えたー 「あれ?心愛ちゃん?」 彼女が、いない。さっきまで隣にいたはずなのに。 どこへ行った? 「あ…いた」 彼女は、この美術館の入り口付近の右奥にある、 こじんまりとしたカフェを興味深そうにきょろきょろと 周りを見渡しながら歩いていた。 「…全く、もう。世話が焼ける…」 子供じゃないんだから…。目を離すと、いつもこれだ。 子供のように、無邪気に歩き回る。 そこも彼女の魅力だけど、何も言わずに勝手にいなくなるので心配になる。 お願いだから、心臓に悪いことはしないでくれよ。 でも、そういうところも好きだから、 世話が焼けるといっても嫌ではないんだけど。 「こーこーあーちゃーん」 僕は、カフェの中央に立ってカフェ全体を見渡す彼女のもとへ走った。 「あっ、ひろくん!」 彼女は僕に笑顔を向けた。 「こーら、すぐにいなくならない」 僕は彼女の頭をぽんぽんと撫でた。 「ごめん。でもね~」 「カフェに行きたかったら、後で行くから。とりあえず受付」 「あっ、そうだった。すっかり忘れてた」 「ほら、行くよ」 「うん…!」 僕は彼女の手をしっかりと握り、受付カウンターへ歩き出した。 「大人二人で」 「はい、かしこまりました」 受付嬢がにこりと微笑む。 とても綺麗な女だなと思っていると、彼女が急に僕の手を放し、走り出した。 「えっ…!?心愛ちゃん…?」 彼女の姿は、既になかった。 「全く、手のかかる…。僕から手を放すなと、何度言ったらわかるんだ…」 僕は独り言を呟いた。 「良いですね、仲がよろしいようで」 受付嬢が僕に言った。 「ええ、はい、まあ…」 僕は頭を掻いた。 「ごゆっくりどうぞ」 受付嬢は、笑顔で僕を見送った。
/139ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加