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護衛役といっても海舟自身はそれをあまり好まなかった。
海舟の逸話に、刀の鍔と鞘を紙縒りで結んで、刀を抜けないようにしていたとの話しがあるが、それが事実かどうかはさておき、海舟は剣術の腕はある程度あったようだが、生涯刀を抜くことはなかったようで、抜き身の白刃のような以蔵といる時間がどうにも心地悪かった。
「以蔵さんよぉ、アンタぁ人を斬ることをたしなんでいるようだが、この前のようにやたらと叩き斬るのはどうもよくねぇと思うよ」 間を繋ぐ為なのか、海舟は小言めいたことを以蔵に言った。
すると以蔵は、真っ直ぐな目でこう答えたという。
「あの時、私が剣を抜かねば、先生の首は飛んでおりました」
後に明治政府のご意見番として毒舌を吐きまくった海舟もそれには返す言葉がなかった。
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