出会い

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出会い

  文久三年  この年将軍家茂入京の為、勝海舟は随行団の一員として京都に入っていた。  その海舟の元へ、海軍操練所の塾生ともいえる土佐藩士が数名訪れてきた。  その中に髪がボサボサで、目つきが鋭く、何が不満なのか、口を尖らせて部屋の隅っこに座っている男がいた。  それが海舟が岡田以蔵を初めて認識した瞬間だった。 「あの者は見たことのねぇツラだがぁ・・・アレも土州産かねぇ」  海舟は別段男に興味が沸いた訳でもなかったが、会話の切れ間に、近くに居た土佐藩士に聞いた。 「あれは、勤王党の岡田以蔵なる者でして、たいそう剣に優れている故、護衛に連れてまいりました・・・オイ!以蔵!オマン、まだ海舟先生に挨拶をしちょらんかったのか!はよぉコッチにきて先生に挨拶せんといかんゼヨ」  促されると、モゾモゾと独り言をいい、俯いたまま痩せた野良犬のような男が海舟の前までやってくると、手を突いて籠もった声で挨拶をした。 「土州藩士、岡田以蔵に御座ります・・・」 それだけ言うと、以蔵はまた項垂れたまま部屋の隅っこに行き、口を尖らせ座ってしまった。 「申し訳御座いません、礼儀を心得ないもので」 「よいよい!俺なんざぁ慇懃に頭を下げる男じゃぁねぇよ!以蔵さんよぉ!俺に不満があるんだったら気にするこたぁねぇよ、言ってごらん!」  
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