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或る朝、鳴り止まないインターホンで俺は目を覚ました。
眠い目を擦って玄関の扉を開けると、そこには白衣姿の男が何名か立っている。
ぽかんとする俺の目の前で、男の一人が話し出した。
「突然すみません。この鶏は、貴方のものですか?」
その指差す方に、アメがいる。俺はぼんやりしたまま、はあ、と答えた。
「最初から飼っていたという事ですか?」
「いえ……拾ったんですけど」
すると、男達は顔を見合わせた。
ヒヤッとした。胃の辺りを、嫌なものが通ったのだ。
まずい。俺は今、何か不利な事を言ったのではないか?
男の一人が、俺の方を向き直った。
「この鶏は、我々のものです」
「……何で?」
狼狽える俺の、辛うじて言える言葉だった。男は淡々と話す。
「あの鶏の足には、我々の研究所で扱っているナンバーが刻まれていました」
「研究?」
「貴方はもうきっとご存じでしょうが、あの鶏は黄金の卵を産む事が出来ます。それは我々の研究が生み出した技術なのです」
馬鹿げてる。そんな事、出来る訳ない。でも現に、俺はこの豪邸の前で立っている。それはこいつらのお陰だって言うのか?
「拾ってくださり、ありがとうございました。しかもこんなにしっかり育てて頂いて……逃げ出した時は、本当にどうしようかと」
男の安堵の声も、俺の耳には留まろうとしない。俺はただ茫然と、男の手に抱かれるアメを見ている事しか出来なかった。
「申し訳ありませんが、この事は他言無用でお願い致します。本来でしたら、貴方が黄金の卵で使った金額を返して頂きたい所ではございますが、それは口止め料と致しましょう」
口止め料? 恩着せがましい。アメを育てたのは俺だぞ。育てなかったら、あんたらの研究はパーだったんだぞ。アメだって、そのお礼で俺に金を恵んでくれたんだろう?
ところがアメは、一回たりとも俺の顔を見ようとはせず、キョロキョロとしきりに首を動かしていた。
思い出した。鶏は3歩歩いたら忘れちまうんだったな。俺への恩返しもへったくれもないのか。こんな事なら、お前の腹を引き裂いてしまった方がまだマシだった。
では、と、男達が去っていく。開いた口が塞がらず立ち尽くす俺の耳に、あの高い声が聞こえてきた。
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