第十話 go with the flow

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第十話 go with the flow

さやかと律子は共に待ち合わせにいつも一番乗りのタイプで、昔から遅刻常習者の瞳と私に、彼女たちは本来の待ち合わせの時刻より三十分から一時間ほど前の時間を知らせてきた。 今日は功太郎とのことを割り切れた自分をさやかと律子に聞いてもらいたくて珍しく待ち合わせの時間通りに、ワッフルのおいしいこの店に来てみたら二人ともいなかった。 とりあえず抹茶ラテを注文して時間を持て余していると、窓際の席の女の子二人が今買ってきたとばかり思われる福袋の中身を吟味しているところだった。 手持ち無沙汰なので目線だけはスマホにやっているのだが、彼女たちのやり取りが自然と耳に入ってくる。 どうやら貴金属の店のもののようだ。 「ちょっとー、これ大失敗」 「うわっ、何それ!おばあちゃんとかつけてそう。腹黒い店~」 「こんなのどこ探したってないよね」 対照的にもう一人の娘の中身は比較的当たりのようだった。 有り金全部はたいたかいがあったと喜んでいる。 同じものを買ったというのに、こういう格差がついてしまうなんてまるでかつての瞳と自分みたいだなと思った。 そういえば自分も瞳に付き合わされて福袋の最前列に並ばされたことがあった。 案の定あのときの私も中身ははずれで、もう福袋を買うなんて真っ平だと思ったものだ。 怪しい空模様になってきたなあと思っていると、休みだというのにいつも通りピシッとした出で立ちの律子が驚いた顔をして私のもとへとやって来た。 「早く来られるんじゃない」 「まあね」 私の生返事を耳にすると、律子は険しい顔をしてそれでも社会人なの?と冷たく言った。 一応、と答える私の言葉を無視してそれよりさやかはまだなのかと聞いてきた。 「うん、さやかにしちゃ遅いんでしょ」 「そうね、あんたが珍しく早く来たりするからあの娘に何かあったんじゃないの?」 「私にしては目覚ましい成長なんだからもうちょっとプラスにとってよ」 「成人として至極当たり前のことができなかっただけよ。あんたも瞳も」 私は、はい、はい、すみませんでしたねと言うと話題を変えた。 「あの彼とはその後それっきり?」 「どの彼よ」 「うーんと・・・」 聞いている自分もなんだかよくわからなくなってきた。 「たしか上司と取り合った人」 律子はたばこを一本取り出すと火をつけ深く吸い込んだ。 この人も高校時代にさやかからたばこを教わった一人である。 「ああ、この間うちの郵便受けに奥さんからの手切れ金が入ってわたよ」 「へーえ、そういうことってホントにあるんだ」 私が驚いてもちろん彼に返したんでしょ?と聞くと、律子は鼻で笑ってもちろん受け取ったわよと言った。 「おかげで一儲けさせてもらったわ」 「・・・・・・。そんな恋愛してて侘しくない?」 律子は一瞬黙りこくると、好きでしているんじゃないわと言った。 「それより功太郎さんとはどうなったの?」 「確信はないけど・・・、意外と愛されてるかもしれない」 律子はへーえと言いながら視線を私に向けると、寝たの?と聞いてきた。 「・・・・・・。え、まだだけど」 ずいぶん保守的ねと律子が言うので、私の方はいつでもウェルカムだけど、向こうがねと言った。 「そうなの?」 「ま、気長に待ってみる」 律子はそう言う私に、まあ、もとは友達の男だった人なのだからそれなりのリスクは付きまとうわよねと言った。 そこへなんだか悩める顔をしたさやかが奥まった席の私たちのもとへやってきた。 「ごめんね、遅くなって」 「まだ十分しか遅れてないわよ」 そういう私の存在にさやかはやっと気が付き、はっという顔をした。 「祥子どうしたの?!彼と何かあった?」 私は昔から華がないということを自分でも承知しているが、さやかに対して背を向けているのではないのだから、いることぐらい気が付いてほしかった。 「うん、心配しなくてもわりとうまくいってるみたい」 私のその言葉を聞くと、さやかの顔がパッと明るくなった。 「そうなの。よかった~」 私もこの娘のように人の幸福を素直に喜べる人間にならなければならない。
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